[math]1990年東京大学理系前期数学問題2

問題

\(3\)次関数\(h(x) = px^3+qx^2+rx + s\)は次の条件\((i), (ii)\)をみたすものとする。
\((i)\) \(h(1) = 1, h(-1) = -1\)
\((ii)\) \(-1<x<1\)で極大値\(1\)、極小値\(-1\)をとる。このとき、
\((1)\) \(h(x)\)を求めよ。
\((2)\) \(3\)次関数\(f(x) = ax^3+bx^2+cx+d\)が区間\(-1<x<1\)で\(-1<f(x)<1\)をみたすとき、\(\mid x\mid >1\)なる任意の実数\(x\)に対して\(\mid f(x) \mid < \mid h(x)\mid\)が成立することを証明せよ。

方針

うまく誘導に乗りたいところだが、\((1)\)から相当に難しい。

解答

\((1)\) 極小値、極大値を取る\(x\)の値をそれぞれ\(\alpha, \beta\)とする。\(h(\alpha)\)は極小値で、\(h(\alpha) = -1, h(-1)=-1\)であるから、$$h(x) + 1 = p(x-\alpha)^2(x+1)$$と置くことができる。同様に考え、\(h(\beta) = 1, h(1) = 1\)であるから、$$h(x) -1 = p(x-\beta)^2(x-1)$$と置くことができる。これから恒等式$$p(x-\alpha)^2(x+1)-1 = p(x-\beta)^2(x-1)+1$$が成り立つ。両辺とも展開すると、左辺は$$px^3 + p(-2\alpha+1)x^2+p({\alpha}^2-2\alpha)+p{\alpha}^2-1$$右辺は$$px^3+p(-2\beta-1)x^2 + p({\beta}^2 + 2\beta)x-p{\beta}^2+1$$となる。したがって、$$\begin{cases}-2\alpha+1 = -2\beta-1 \\ {\alpha}^2-2\alpha = {\beta}^2+2\beta\\ p{\alpha}^2-1 = -p{\beta}^2+1\end{cases}$$となる。これを解くと、\(\alpha = \frac{1}{2}, \beta = -\frac{1}{2}, p = 4\)となる。以上から、\(h(x) = 4x^3-3x\)である。

\((2)\) \(F(x) = h(x)-f(x)\)と置く。\(f(x)\)は連続なので、\(-1\leq f(\pm1)\leq 1\)であることに注意する。\((1)\)から\(\alpha = \frac{1}{2}, \beta = -\frac{1}{2}\)であるから、$$F(-1) = -1-f(-1)\leq 0$$ $$F\left(-\frac{1}{2}\right) = 1-f\left(-\frac{1}{2}\right) > 0$$ $$F\left(\frac{1}{2}\right) = -1 – f\left(\frac{1}{2}\right) < 0$$ $$F(1) = 1-f(1)\geq 0$$である。\(F(x)\)は\(3\)次以下であるが、\(-1\leq x\leq -\frac{1}{2}\)にひとつ、\(-\frac{1}{2}\leq x\leq \frac{1}{2}\)にひとつ、\(\frac{1}{2}\leq x\leq 1\)にひとつ解をもつ。これ以上は実数解を持たないので、\(\mid x\mid > 1\)では\(F(x)\)の符号は変化しない。\(F(-1) = h(-1)-f(-1) = -1-f(-1)\leq 0\)かつ\(F(1) = h(1)-f(1) = 1-f(1)\geq 0\)であるから、\(x < -1 \)で\(F(x) < 0\)、\(x > 1\)で\(F(x) > 1\)となる。

同じく\(G(x) = h(x)+f(x)\)と置くと、$$G(-1) = -1+f(-1)\leq 0$$ $$G\left(-\frac{1}{2}\right) = 1+f\left(-\frac{1}{2}\right) > 0$$ $$G\left(\frac{1}{2}\right) = -1 + f\left(\frac{1}{2}\right) < 0$$ $$G(1) = 1+f(1)\geq 0$$である。\(G(x)\)は\(3\)次以下であるが、\(-1\leq x\leq -\frac{1}{2}\)にひとつ、\(-\frac{1}{2}\leq x\leq \frac{1}{2}\)にひとつ、\(\frac{1}{2}\leq x\leq 1\)に一つ解をもつ。これ以上は実数解を持たないので、\(\mid x\mid > 1\)では\(G(x)\)の符号は変化しない。\(G(-1) = h(-1)+f(-1) = -1-f(-1)\leq 0\)かつ\(G(1) = h(1)+f(1) = 1-f(1)\geq 0\)であるから、\(x < -1 \)で\(G(x) < 0\)、\(x > 1\)で\(G(x) > 1\)となる。したがって、\(F(x), G(x)\)は\(\mid x \mid > 1\)において同符号であり、$$F(x)G(x) = {h(x)}^2-{f(x)}^2 > 0$$となる。以上から、\(\mid x\mid > 1\)において、\(\mid f(x)\mid < \mid h(x) \mid\)となることが証明された。

解説

\(h(x)\)は\(3\)次のチェビシェフの多項式である。チェビシェフがなぜこのような多項式を考えたか、のひとつがこの東大の問題である。一般に正の整数\(n\)に対して$$\cos{n\theta} = f_n(\cos{\theta})$$となる多項式を第一種チェビシェフ多項式と言う。この多項式の\(n\)次の係数は\(\frac{1}{2^{n-1}}\)となることが比較的容易に証明できる。一般の\(n\)次の多項式\(g(x)\)で\(n\)次の係数が\(1\)であるものに対して、\(-1\leq x\leq 1\)での最大値を\(M\)とする。このとき、\(M\)が最小になるのは\(g(x)\)が\(n\)次のチェビシェフ多項式になるときである。この事実の証明のため、第一種チェビシェフ多項式が考案された。

\(3\)次あるいは\(4\)次については、大学入試問題でもよく出題される。\((1)\)はチェビシェフ多項式とは直接関係ないが中々の問題だ。\(3\)次関数の形状について、我々は熟知している筈なので、計算主体で押すのではなくグラフをささっと書いて、あたりをつけてしまいたい。\((2)\)が問題で、解答のようにチェビシェフ多項式\(h(x)\)と一般の関数\(f(x)\)の差を作るのが常套手段である。経験がないととても難しい。

以下の問題もチェビシェフの多項式を扱ったものであり、参考にすると良い。
1991年東京大学理系数学問題4
1996年京都大学理系後期数学問題1

コメント

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