[math]1999年東京大学前期理系数学問題6

問題

\(\displaystyle{\int_{0}^{\pi}{e^x\sin^2{x}dx} > 8}\)であることを示せ。ただし\(\displaystyle{\pi = 3.14\cdots}\)は円周率、\(\displaystyle{e = 2.71\cdots}\)は自然対数の底である。

方針

前半で数値計算まで持ち込む部分はごく普通の問題である。後半の\(\displaystyle{e^{\pi}}\)の評価が難物である。色々な方法が考えられるが、関数の凸性を利用するのが良い。

解答

\(\displaystyle{\sin^2{x} = \frac{1-\cos{2x}}{2}}\)を使うと、$$\begin{eqnarray}\int_{0}^{\pi}{e^x\sin^2{x}dx} & = & \frac{1}{2}\int_{0}^{\pi}{e^xdx}- \frac{1}{2}\int_{0}^{\pi}{e^x\cos{2x}dx} \\ & = & \frac{1}{2}(e^{\pi}-1)- \frac{1}{2}I\end{eqnarray}$$である。ただし、\(\displaystyle{ I = \int_{0}^{\pi}{e^x\cos{2x}dx}, J = \int_{0}^{\pi}{e^x\sin{2x}dx}}\)と置く。部分積分法により、$$\begin{eqnarray} I &= & [e^{x}\cos{2x}]_{0}^{\pi}-\int_{0}^{\pi}{e^x\cdot(-2\sin{2x})dx} \\ & = & e^{\pi}-1 + 2J \\ J & = & [e^x{\sin{2x}}]_{0}^{\pi} -\int_{0}^{\pi}{e^x\cdot(2\cos{2x})dx} \\ & = & -2I\end{eqnarray}$$であるから、下の式を上の式に代入すると、\(\displaystyle{I = \frac{e^{\pi}-1}{5}}\)がわかる。最初に与えられた式の値は、\(\displaystyle{\frac{1}{2}(e^{\pi}-1)-\frac{I}{2} = \frac{2}{5}(e^{\pi}-1)}\)となる。以上から、示すべきは\(\displaystyle{\frac{2}{5}(e^{\pi}-1) > 8}\)、すなわち\(\displaystyle{e^{\pi} > 21}\)となる。これを示そう。\(\displaystyle{f(x) = e^x}\)と置く。\(y = f(x)\)は下に凸であるから、点\(\displaystyle{(3, f(3))}\)における\(\displaystyle{y = f(x)}\)の接線は\(\displaystyle{y = f(x)}\)よりも下にある。この接線は、\(\displaystyle{y = e^3(x-3)+e^3}\)である。これより、実数\(\displaystyle{x}\)に対して$$e^3(x-3)+e^3 < e^x$$が成り立つ。特に\(\displaystyle{x = \pi}\)とすると、$$\begin{eqnarray}e^{\pi} & > & e^3(\pi-3) + e^3 \\ & = & e^3(\pi-2) \\ & > & (2.71)^3(3.14-2) \\ & = & 19.902511\cdots\times 1.14 \\ & = & 22.68\cdots \\ & > & 21\end{eqnarray}$$となる。よって、与えられた不等式が成立することがわかる。

解説

前半の計算はどのようにしても良い。部分積分法を繰り返し用いても良い。ただし、ここで計算ミスをすると全く点は貰えないだろう。後半の\(\displaystyle{e^{\pi}}\)の評価が難しい。関数電卓で計算すると、\(\displaystyle{e^{\pi} = 23.1406926\cdots}\)となるから、雑な評価はできない。もしも\(\displaystyle{e^{\pi} > e^3}\)とすると、\(\displaystyle{e^3 > (2.71)^3 = 19.90\cdots}\)で失敗。解答では\(y = e^x\)が下に凸であることから\(x = 3\)における接線に着目している。こうすると、\(e^{\pi}\)を\(e^3\)で近似するよりもより良い評価が出来る。大学では、\(\log\)や\(\sin\)の数値計算を行うときに凹凸に着目し、接線を持ち出すのは常套手段であるが、高校の範囲だとあまり出てこない発想である。なお、\(e^{\pi} > 21\)を示すのに両辺の自然対数をとって、\(\pi > \log{21} = \log{3} + \log{7}\)としてから、自分で覚えておいた\(\log{3} = 1.098\cdots, \log{7} = 1.945\cdots\)を用いても良いものであろうか。\(\log\)の値を試験場で覚えていたとしたら部分点は貰えるかも知れないが、厳しい方針である、と言わざるを得ない。大切なのは数値近似をするときに、グラフの凹凸を考えて接線を持ち出す、という手法だけである。

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