問題
区間\(-a<x<a\ (a > 0)\)で定義された実数値をとる関数\(f(x)\)は、次の条件を満たしている。
\((i)\) 定義域内の\(x\)で、\(f(x)\)は微分可能であり、\(f^{\prime}(0)=1\)である。
\((ii)\) 定義域に属する任意の\(x, y, x-y\)に対して、$$f(x-y)f(x)f(y) = f(x)-f(y)-f(x-y)$$が成り立つ。
\((1)\) \(f(0) = 0\)および任意の\(x\ (-a<x<a)\)に対して、\(f(x) + f(-x) = 0\)であることを示せ。
\((2)\) \(f^{\prime}(x)\)を\(f(x)\)を用いて表わせ。
\((3)\) \(-a < x<y<a\)となる任意の\(x, y\)に対して、\(f(x)-x < f(y)-y\)が成り立つことを示せ。
\((4)\) \(0 < x < a\)において、\(\displaystyle f(x) > x + \frac{1}{3}x^3 + \frac{2}{15}x^5 + \frac{1}{63}x^7\)が、\(-a < x < 0\)において\(\displaystyle f(x) < x + \frac{1}{3}x^3 + \frac{2}{15}x^5 + \frac{1}{63}x^7\)が成り立つことを示せ。
方針
\((3)\)までは普通に解ける人が多いだろうが、\((4)\)が難しい。ある閃きがないと、試験場では厳しいだろう。
解答
\((1)\) 条件\((ii)\)で\(x = y = 0\)として、\(\{f(0)\}^3 = -f(0)\)となる。これから\(\{f(0)+1\}\{{f(0)}^2+1\} = 0\)となり、\(f(0)\)は実数なので、\(\underline{f(0) = -1}\)である。また、改めて条件\((ii)\)で\(x = 0\)とすると、\(0 = -f(y) – f(-y)\)となる。これを書き直すと、確かに\(f(x) + f(-x) = 0\)である。
\((2)\) 条件\((ii)\)より$$f(x-y)f(x)f(y) = f(x)-f(y)-f(x-y)$$である。両辺を\(x\)で微分して、$$f^{\prime}(x-y)f(x)f(y)+f(x-y)f^{\prime}(x)f(y) = f^{\prime}(x)-f^{\prime}(x-y)$$となる。この式で\(x = 0\)とすると、\((1)\)から\(f(0) = 0\)、条件\((i)\)から\(f^{\prime}(0) = 1\)だから、$$f(-y)f(y) = 1-f^{\prime}(-y) \tag{a}$$となる。ところで、\((1)\)から\(f(y) + f(-y) = 0\)であるから、両辺を\(y\)で微分して、$$f^{\prime}(y)-f^{\prime}(-y) = 0 \tag{b}$$である。式\((a), (b)\)から$$1-f^{\prime}(y) = -\{f(y)\}^2$$となるので、\(\underline{f^{\prime}(x) = 1+\{f(x)\}^2}\)である。
\((3)\) \(g(x) = f(x)-x\)とすると、\((2)\)から$$\begin{eqnarray}g^{\prime}(x) & = & f^{\prime}(x)-1 \\ & = & 1+\{f(x)\}^2-1 \\ & = & \{f(x)\}^2 \\ & \geq &0\end{eqnarray}$$となり\(g(x)\)は非減少関数である。ここで、\(f^{\prime}(x) = 1+\{f(x)\}^2 > 0\)だから、\(f(x)\)は増加関数で、\(f(x) = 0\)となる\(x\)は\((1)\)から\(x = 0\)のみである。したがって\(x\ne 0\)では\(g^{\prime}(x) > 0\)で\(g(x)\)は増加関数となり、題意の不等式が成り立つ。
\((4)\) \(0 < x < a\)において\(\displaystyle h(x) = f(x) -\left(x + \frac{1}{3}x^3 + \frac{2}{15}x^5 + \frac{1}{63}x^7\right)\)とする。$$\begin{eqnarray}h^{\prime}(x) & = & f^{\prime}(x)-1-x^2-\frac{2}{3}x^4-\frac{1}{9}x^6 \\ & = & 1+\{f(x)\}^2-1-\left(x + \frac{1}{3}x^3\right)^2 \\ & = & \left(f(x) + x + \frac{1}{3}x^3\right)\left(f(x)-x-\frac{1}{3}x^3\right)\end{eqnarray}$$となる。\(f(x)\)は増加関数であるから、\(x > 0\)において\(f(x) > f(0) = 0\)となる。したがって、\(x > 0\)では\(\displaystyle f(x) + x + \frac{1}{3}x^2 > 0\)である。今、\(\displaystyle p(x) = f(x)-x-\frac{1}{3}x^3\ (0<x<a)\)として、\(p(x)\)の増減を調べる。$$\begin{eqnarray}p^{\prime}(x) & = & f^{\prime}(x)-1-x^2 \\ & = & \{f(x)\}^2-x^2\\ & = & \{f(x)+x\}\{f(x)-x\} \\ & = & \{f(x)+x\}g(x)\end{eqnarray}$$である。\(g(x)\)は\(x > 0\)で増加関数で、\(g(0) = f(0)-0 = 0\)だから、\(x > 0\)では\(g(x) > 0\)となる。以上より、\(p^{\prime}(x) > 0\)だから、\(h^{\prime}(x) > 0\)となり、\(x > 0\)で\(h(x) > h(0) = 0\)となる。
さて、\((1)\)から\(f(x) + f(-x) = 0\)だから、\(f(x)\)は奇関数である。したがって、\(0<x<a\)において\(\displaystyle f(x) > x + \frac{1}{3}x^3 + \frac{2}{15}x^5 + \frac{1}{63}x^7\)であるならば、\(\displaystyle x + \frac{1}{3}x^3 + \frac{2}{15}x^5 + \frac{1}{63}x^7\)も奇関数なので、\(-a < x < 0\)では\(\displaystyle f(x) < x + \frac{1}{3}x^3 + \frac{2}{15}x^5 + \frac{1}{63}x^7\)となる。
解説
\((1)\)から順に見る。\((1)\)はよく見るタイプの問題で、\(f(0)=0\)はすぐにわかるだろう。\(f(x) + f(-x) = 0\)も防衛医科大学校の受験生であるならば手堅く処理したい。
\((2)\)は条件\((ii)\)を微分する。\(x, y\)のどちらを\(0\)と置くかで一瞬考えるが、出来ることはそれほど多くないので、行き詰まることはないだろう。
\((3)\)も\((2)\)がしっかりと出来ていればそれほど問題はない。\(g(x) = 0\)となる\(x\)がたくさんあると困るので、それが\(x = 0\)のみであることは言及しておく。
\((4)\)が一転して非常に難しい。取りあえず差を作り微分するが、解答のように因数分解に気がつかないとお手上げだろう。一筋縄ではいかない発想を要求される難問である。因数分解に気がついたあとでも色々と細かい部分で鬱陶しい問題である。きちんと解こうと思ったらとても時間がかかる。解答では\(0 < x < a\)のときだけを考え、\(-a < x < 0\)のときは、\((1)\)で出た\(f(x) + f(-x) = 0\)を使い、\(f(x)\)が奇関数であることを見抜いて計算を楽にしている。奇関数は原点に対して対象なグラフなので、大小関係も\(x = 0\)を境に逆になる。\((4)\)はTaylor展開を題材にした問題である。実は問題の\(f(x)\)は\(\tan{x}\)である。このことは以下の別解のようにするとはっきりと見えてくる。
別解
\((3)\) \((2)\)から\(f^{\prime}(x) = 1 + \{f(x)\}^2\)であるから、\(y = f(x)\)として、$$\frac{dy}{dx} = 1 + y^2$$である。これを変形して、$$\frac{dy}{1+y^2} = dx$$となる。両辺を積分して、$$\int{\frac{dy}{1+y^2}} = x + C$$となる。ただし、\(C\)は定数である。左辺の積分で\(y = \tan{\theta}\)とすれば、$$\begin{eqnarray}\int{\frac{dy}{1+y^2}} & = & \int{\frac{1}{1+\tan^2{\theta}}}\cdot \frac{d\theta}{\cos^2{\theta}} \\ & = & \int{d\theta} \\ & = & \theta\end{eqnarray}$$となるから、\(\theta = x + C\)である。\((1)\)から\(f(0) = 0\)なので、\(C = 0\)である。よって、\(\theta = x\)である。これと\(y = \tan{\theta}\)から\(y = \tan{x}\)がわかる。ここで、平均値の定理から$$\tan{y}-\tan{x} = \frac{1}{\cos^2{z}}(y-x)\ (x < z < y)$$となる\(z\)が存在する。\(\displaystyle \frac{1}{\cos^2{z}} > 1\)だから、\(f(y)-f(x) > y-x\)となり、題意の不等式が示せる。
\((4)\) \(\tan{x}\)をTaylor展開すると、$$\tan{x} = x + \frac{1}{3}x^3 + \frac{2}{15}x^5 + \frac{1}{63}x^7 + \cdots$$となる。よって、\(x > 0\)において\(\displaystyle f(x) > x + \frac{1}{3}x^3 + \frac{2}{15}x^5 + \frac{1}{63}x^7 \)である。
\((3)\)の微分方程式にしても、高校の範囲を超えている。防衛医科大学校はこのように大学進学後習う事柄に良い誘導をつけ受験生でも解くことが出来るような形で出題することがある。難しい事柄でもきちんと勉強すれば立ち向かうことの出来る問題である。
参考問題
1994年東京大学理系数学問題1 指数関数とネイピア数
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