[math]2008年度前期東京工業大学数学問題3

問題

いびつなサイコロがあり、\(1\)から\(6\)までのそれぞれの目が出る確率が\(\displaystyle \frac{1}{6}\)とは限らないとする。このサイコロを\(2\)回振ったとき同じ目が出る確率を\(P\)とし、\(1\)回目に奇数、\(2\)回目に偶数の目が出る確率を\(Q\)とする。
\((1)\) \(\displaystyle P \geq \frac{1}{6}\)であることを示せ。また、等号が成立するための必要十分条件を求めよ。
\((2)\) \(\displaystyle \frac{1}{4} \geq Q \geq \frac{1}{2}-\frac{3}{2}P\)であることを示せ。

方針

\(k\)という目が出る確率を\(p_k\)とする。\((1)\)も\((2)\)もある有名不等式を利用する。

解答

\((1)\) \(k\)という目が出る確率を\(p_k\ (k = 1, 2, 3, 4, 5, 6)\)とする。$$\begin{eqnarray}\sum_{k=1}^{6}{p_k} &= & 1 \\ \sum_{k=1}^{6}{{p_k}^2} & = & P \end{eqnarray}$$である。コーシーシュワルツの不等式から、$$\begin{eqnarray}\sum_{k=1}^{6}{1^2}\sum_{k=1}^{6}{{p_k}^2} & \geq & \left(\sum_{k=1}^{6}{1\cdot p_k}\right)^2 \\ & = & 1\end{eqnarray}$$である。よって、\(\displaystyle P \geq \frac{1}{6}\)である。等号が成り立つのは、\((p_1, p_2 , \cdots , p_6) = k(1, 1, \cdots, 1)\)となるときで、これは\(\displaystyle k = \frac{1}{6}\)の時以外ありえない。したがって、\(\displaystyle \underline{p_1 = p_2 = p_3 = \cdots = p_6 = \frac{1}{6}}\)の時に等号が成立する。

\((2)\) \(Q = (p_1+p_3+p_5)(p_2+p_4+p_6)\)である。\(p_1+p_3+p_5=x\)とすると、\(0\leq x\leq 1\)で、\(Q = x(1-x)\)となる。まず、\(0\leq x\leq 1\)において\(\displaystyle Q = x(1-x)\leq \frac{1}{4}\)だから左側の不等式が成り立つ。次に、再度コーシーシュワルツの不等式から、$$\begin{eqnarray}(1^2+1^2+1^2)({p_1}^2+{p_3}^2+{p_5}^2) & \geq & (1\cdot p_1 + 1\cdot p_3 + 1\cdot p_5)^2 \\ (1^2+1^2+1^2)({p_2}^2+{p_4}^2+{p_6}^2) & \geq & (1\cdot p_2 + 1\cdot p_4 + 1\cdot p_6)^2\end{eqnarray}$$となる。この二式を辺ごとに足して、$$3P \geq x^2 + (1-x)^2$$がわかる。これを整理すると\(\displaystyle Q \geq \frac{1}{2}-\frac{3}{2}P\)となり、右側の不等式も成立する。

解説

\((1)\)は1979年度の京都大学の文理共通の問題でまったく同じ出題がある。色々な解き方があるが、コーシーシュワルツの不等式に気がつくと一発である。この不等式は、実数\((x_1, x_2, \cdots, x_n)\)と\((y_1, y_2, \cdots, y_n)\)に対して、$$({x_1}^2+{x_2}^2+\cdots + {x_n}^2)({y_1}^2+{y_2}^2+\cdots +{y_n}^2)\geq (x_1y_1+x_2y_2 + \cdots x_ny_n)^2$$が成り立つというものである。

覚え方としては、ベクトル\(\overrightarrow{X} = (x_1, x_2, \cdots, x_n)\)と\(\overrightarrow{Y} = (y_1, y_2, \cdots, y_n)\)を考え、この二つのベクトルの成す角を\(\theta\)としたとき、\(\overrightarrow{X}\cdot \overrightarrow{Y} = \mid \overrightarrow{X}\mid \mid \overrightarrow{Y} \mid \cos{\theta}\)だから、絶対値の積はベクトルの内積よりも大きいことから、$$\mid \overrightarrow{X} \mid ^2 \mid \overrightarrow{Y} \mid^2\geq (\overrightarrow{X}\cdot \overrightarrow{Y})^2$$が成り立ち、ここに各成分を代入すると無事コーシーシュワルツの不等式を得る事ができる。また、等号が成立するのは\(\overrightarrow{X}\)と\(\overrightarrow{Y}\)が平行になるときであるから、\((x_1, x_2, \cdots, x_n) = k(y_1, y_2, \cdots, y_n)\)となる実数\(k\)が存在する時である。

コーシーシュワルツの不等式はきちんとした証明もできる。実数\(t\)の二次方程式$$\sum_{k=1}^{n}{(x_kt-y_k)} = t^2\sum_{k=1}^{n}{{x_k}^2}-2t\sum_{k=1}^{n}{x_ky_k} + \sum_{k=1}^{n}{{y_k}^2}$$を考えると、これはどんな実数\(t\)に対しても高々一つしか解を持たない。なので、判別式が負になることから、$$\left(\sum_{k=1}^{n}{x_ky_k}\right)^2\leq \sum_{k=1}^{n}{{x_k}^2}\sum_{k=1}^{n}{{y_k}^2}$$が成り立つ、という訳である。

\((2)\)の左側の不等式の証明は簡単である。右側は、\(p_1, p_3, p_5\)と\(p_2, p_4, p_6\)に分けてコーシーシュワルツの不等式を用いてからそれを足している。思いつけば一発だが試験場では意外に難しいのかも知れない。

関連問題

1969年東京工業大学数学問題1 コーシー・シュワルツの不等式、式の超難問

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