[math]2012年東京医科歯科大学前期数学問題1

問題

数列\(\{a_n\}, \{b_n\}\)を次のように定義する。$$\begin{cases}a_1 = 5, b_1 = 3\\ \\\begin{pmatrix}a_{n+1}\\b_{n+1}\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}5 & 3 \\ 3 & 5\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a_n \\ b_n\end{pmatrix}(n=1, 2, 3, \cdots)\end{cases}$$また、自然数\(n\)について\(c_n = {a_n}^2-{b_n}^2\)とおく。このとき以下の各問に答えよ。
\((1)\) \(c_n\)を\(n\)を用いて表わせ。
\((2)\) \(k\)を自然数とするとき、自然数\(l\)について$$a_{k+l} = a_ka_l+b_kb_l, b_{k+l} = b_ka_l + a_kb_l $$が成立することを、\(l\)についての数学的帰納法によって示せ。
\((3)\) \(n > l\)となる自然数\(n, l\)について$$b_{n+l}-c_lb_{n-l} = 2a_nb_l$$が成立することを示せ。
\((4)\) \(2\)以上の自然数\(n\)について$$a_{2n} + \sum_{m=1}^{n-1}{c_{n-m}a_{2m}} = \frac{b_{2n+1}}{2b_1}-\frac{c_n}{2}$$が成立することを示せ。

方針

\((3)\)は与えられた式を計算するのが良い。\((4)\)が問題になる。実は\(a_n, b_n\)を直接求めることが出来て、そうすると単なる計算問題になるが、ここでは\((3)\)を利用してみる。

解答

\((1)\) \(a_{n+1} =5a_n+3b_n, b_{n+1} = 3a_n+5b_n\)だから、$$\begin{eqnarray}c_{n+1} & = & (5a_n+3b_n)^2-(3a_n+5b_n)^2 \\ & = & 16({a_n}^2-{b_n}^2)\\ & = & 16c_n\end{eqnarray}$$である。\(c_1 = {a_1}^2-{b_1}^2 = 16\)だから、\(\underline{c_n = 16^{n}}\)となる。

\((2)\) \(l=1\)のとき、\(a_{k+1}=5a_k+3b_k=a_1a_k+b_1b_k, b_{k+1}=3a_k+5b_k=b_1a_k+a_1b_k\)だから、$$\begin{eqnarray}a_{k+l} & = & a_ka_l+b_kb_l \\ b_{k+l} & = & b_ka_l+a_kb_l\end{eqnarray} \tag{a}$$が成り立つ。ある\(l\)で式\((a)\)の成立を仮定すると、$$\begin{eqnarray}a_{k+l+1} & = &5a_{k+l}+3b_{k+l} \\ & =& 5(a_ka_l+b_kb_l)+3(b_ka_l+a_k+b_l) \\ & = & a_l(5a_k+3b_k)+b_l(3a_k+5b_l) \\ & = & a_la_{k+1}+b_lb_{l+1} \\ b_{k+l+1} & = & 3a_{k+l}+5b_{k+l} \\ & = & 3(a_kb_l+b_ka_l)+5(b_ka_l+a_kb_l) \\ &= & a_l(3b_k+5b_k)+b_l(3a_k+5b_k) \\ & = & a_lb_{k+1}+b_la_{k+1}\end{eqnarray}$$ となり、\(l+1\)でも成立する。よって、\(l\)についての数学的帰納法によって、題意が示された。

\((3)\) \((2)\)から、$$\begin{eqnarray}b_{n+l}-c_lb_{n-l} & = & b_na_l+a_nb_l-({a_l}^2-{b_n}^2)b_{n-l} \\ & = & a_l(b_n-a_lb_{n-l})+b_l(a_n+b_lb_{n-l})\\ & = & a_lb_la_{n-l} + b_l(a_n+b_lb_{n-l})\\ & = & b_l(a_la_{n-l}+b_lb_{n-l})+a_nb_l \\ & = & b_la_n+a_nb_l \\ & = & 2a_nb_l\end{eqnarray}$$となり、題意が示された。

\((4)\) \((3)\)から$$b_{n+l}-c_lb_{n-l} = 2a_nb_l$$である。\(n=2m\)とすると、$$b_{2m+l}-c_lb_{2m-l} = 2a_{2m}b_l$$である。\(b_l > 0\)だから、変形して$$a_{2m} = \frac{b_{2m+l}-c_lb_{2m-l}}{2b_l}$$である。両辺に\(c_{n-m}\)を掛けて、$$a_{2m}c_{n-m} = \frac{c_{n-m}b_{2m+l}-c_{n-m}c_lb_{2m-l}}{2b_l}$$である。ここで\(l=1\)とすると、$$a_{2m}c_{n-m} = \frac{c_{n-m}b_{2m+1}-c_{n-m}c_1b_{2m-1}}{2b_1}$$であるが、\(c_1 = 16, c_n = 16^n\)より$$a_{2m}c_{n-m} = \frac{c_{n-m}b_{2m+1}-c_{n-m+1}b_{2m-1}}{2b_1}$$がわかる。この式で\(m=1, 2, \cdots, n\)としたものを辺ごとに足すと、どんどん打ち消し合って、$$\sum_{m=1}^{n}{a_{2m}c_{n-m}} = \frac{c_0b_{2n+1}-c_nb_1}{2b_1}$$である。これは求める数式である。

解説

色々な解き方が存在する問題である。例えば、\(a_{n+1}=5a_n+3b_n, b_{n+1}=3a_n+5b_n\)から、\(x_n = a_n+b_n, y_n = a_n-b_n\)とすると、\(x_{n+1}=8x_n, y_{n+1}=2y_n\)がわかる。\(x_1 = a_1+b_1=8, y_1=a_1-b_1=2\)だから、\(x_n=8^n, y_n = 2^n\)である。よって、\(\displaystyle a_n=\frac{8^n+2^n}{2}, b_n=\frac{8^n-2^n}{2}\)である。これから\(c_n\)は簡単に計算できる。

実は$$\begin{pmatrix}a_n & b_n \\ b_n & a_n\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}5 & 3 \\ 3 & 5\end{pmatrix}^n$$であることが数学的帰納法により示せる。一般の\(2\times 2\)行列に対して、$$A = \begin{pmatrix}a & b \\ c & d\end{pmatrix}$$に対して\(det(A) = ad-bc\)とすると、\(det(A^n) ~ (det(A))^n = (ad-bc)^n\)となる。この\(det(A)\)を行列\(A\)の行列式という。すると、$$\begin{pmatrix}a_n & b_n \\ b_n & a_n\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}5 & 3 \\ 3 & 5\end{pmatrix}^n$$の両辺の行列式を考え、$${a_n}^2-{b_n}^2 = (5\cdot 5-3\cdot 3)^n$$となり、\(c_n = 16^n\)を求めることもできる。ちなみに\((2)\)も$$\begin{eqnarray} \begin{pmatrix}a_{k+l} & b_{k+l}\\ b_{k+l} & a_{k+l}\end{pmatrix} & = & \begin{pmatrix}5 & 3 \\ 3 & 5\end{pmatrix}^{k+l} \\ & = & \begin{pmatrix}5 & 3 \\ 3 & 5\end{pmatrix}^k \begin{pmatrix}5 & 3 \\ 3 & 5\end{pmatrix}^l \\ & = & \begin{pmatrix}a_k & b_k \\ b_k & a_k\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a_l & b_l \\ b_l & a_l\end{pmatrix}\\ & = & \begin{pmatrix}a_ka_l + b_kb_l & b_ka_l + a_lb_k \\ b_ka_l+a_kb_l & a_ka_l + b_kb_l\end{pmatrix}\end{eqnarray}$$ときれいに示すことができる。

\((3)\)も求めた\(a_n, b_n, c_n\)を代入して計算するのが最も単純であるが、$$\begin{pmatrix}a_n & b_n \\ b_n & a_n\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}5 & 3 \\ 3 & 5\end{pmatrix}^n$$であることを利用してみる。簡単のため\(P = \begin{pmatrix}5 & 3 \\ 3 & 5\end{pmatrix}\)と置く。すると、$$\begin{eqnarray}P^{n+l}-c_lP^{n-l} & = & P^{n-l}(P^{2l}-c_lE) \\ & = & P^{n-l}\left(\begin{pmatrix}{a_l}^2+{b_l}^2 & 2a_lb_l \\ 2a_lb_l & {a_l}^2+{b_l}^2\end{pmatrix}-\begin{pmatrix}{a_l}^2-{b_l}^2 & 0 \\ 0 & {a_l}^2-{b_l}^2\end{pmatrix}\right) \\ & = & 2b_1P^{n-l}\begin{pmatrix}b_l & a_l \\ a_l & b_l\end{pmatrix} \\ & = & 2b_l\begin{pmatrix}a_{n-l} & b_{n-l}\\ b_{n-l} & a_{n-l}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}b_l & a_l \\ a_l & b_l\end{pmatrix}\\ & = & 2b_l\begin{pmatrix}a_{n-l}b_l+b_{n-l}a_l & a_{n-l}a_l + b_{n-l}b_l \\ a_{n-l}a_l + b_{n-l}b_l & a_{n-l}b_l + b_{n-l}a_l\end{pmatrix}\\ & = & 2b_l\begin{pmatrix}b_n & a_n \\ a_n & b_n\end{pmatrix}\end{eqnarray}$$である。ただし、\(E\)は\(2\times 2\)の単位行列とする。\(P^{n+l}-c_lP^{n-l}\)の右上成分は\(b_{n+l}-c_lb_{n-l}\)であるので、右上成分を比べてここからも\(b_{n+l}-c_lb_{n-l} = 2b_la_n\)を示す事もできる。

以上のように、高度で面白い問題であるが、試験場で解ききるのはなかなか大変である。

関連問題

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