問題
\(ad-bc = 1, a > 0\)を満たす整数\(a, b, c, d\)を考える。行列$$A = \begin{pmatrix}6 & 10\\ 10 & 7\end{pmatrix}, B = \begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & 2\end{pmatrix}, M = \begin{pmatrix}a & b \\ c & d\end{pmatrix}, N = \begin{pmatrix}a & c \\ b & d\end{pmatrix}$$が\(NA = BM^{-1}\)を満たすとき、以下の各問いに答えよ。ただし\(M^{-1}\)は\(M\)の逆行列を表す。
\((1)\) \(6a^2+20ac + 17c^2\)の値を求めよ。
\((2)\) \(2a^2+b^2\)の値を求めよ。
\((3)\) \(a, b, c, d\)の値を求めよ。
\((4)\) \(6x^2+20xy+17y^2=59\)を満たす実数\(x, y\)に対して$$\begin{cases}X = dx-by\\ Y = -cx + ay\end{cases}$$とおくとき、\(X^2+2Y^2\)の値を求めよ。
\((5)\) \(6x^2+20xy+17y^2 = 59\)を満たす整数の組\((x, y)\)をすべて求めよ。
方針
総合的な問題であるが、必要なのは粘り強い計算力だけである。
解答
\((1)\) \(ad-bc = 1\)から\(\displaystyle M^{-1} = \begin{pmatrix}d & -b \\-c & a\end{pmatrix}\)となる。これを\(NA = BM^{-1}\)に代入して、$$\begin{pmatrix}a & c \\ b & d\end{pmatrix}\begin{pmatrix}6 & 10 \\ 10 & 7\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0& 2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}d & -b\\ -c & a\end{pmatrix}$$となる。計算して、$$\begin{pmatrix}6a+10c & 10a+17c\\6b + 10d & 10b+17d\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}d & -b\\ -2c & 2a\end{pmatrix}$$となる。これから、$$\begin{cases}6a + 10c = d\\ 10a+17c = -b \\ 3b + 5d=-c \\10b + 17d = 2a\end{cases}$$となる。第一式と第三式から\(d\)を消去すると\(3b + 5(6a+10c) = -c\)だから、整理して\(b = -10a -17c\)となる。第二式と第四式から\(b\)を消去すると\(10(-10a-17c) + 17d = 2a\)だから、整理して\(d = 6a+10c\)となる。これらの式を\(ad-bc = 1\)に代入して、$$\begin{eqnarray}ad-bc & = & a(6a+10c)-c(-10a-17c)\\ & = & 6a^2+20ac + 17c^2 \\ & = & 1\end{eqnarray}$$となる。よって\(\underline{6a^2+20ac + 17c^2 = 1}\)である。
\((3)\) \((1)\)から\(6a^2+20ac + 17c^2 – 1 = 0\)である。この\(a\)に関しての二次方程式は実数解を持つので、判別式\((10c)^2-6(17c^2-1) > 0\)である。計算すると\(c^2 < 3\)となり、\(c\)は整数だったので、\(c = 0, \pm1\)しかありえない。\(c = 0\)とすると\((1)\)から\(6a^2=1\)となり、これを満たす整数\(a\)は存在しない。\(c = 1\)とすると\((1)\)から\(6a^2+20a+16 = 0\)となり、\(a > 0\)であるからこれを満たす整数\(a\)は存在しない。\(c = -1\)とすると\((1)\)から\(6a^2-20a+16 = (3a-4)(2a-4) = 0\)となり、\(a > 0\)であるから\(a = 2\)となる。これから\(a = 2, c = -1\)であり、\((1)\)から\(6a+10c = d, b = -10a-17c\)であったから、\(b = -3, d = 2\)となる。まとめると、\(\underline{a = 2, b = -3, c = -1, d = 2}\)となる。
\((2)\) \((3)\)から\(2a^2+b^2 = 8 + 9 = \underline{17}\)となる。
\((4)\) \((3)\)から\(X = 2x + 3y, Y = x + 2y\)となる。したがって、$$\begin{eqnarray}X^2 + 2Y^2 & = & (2x+3y)^2 + 2(x+2y)^2 \\ & = & (4x^2+12xy +9y^2) + 2(x^2+4xy + 4y^2)\\ & = & 6x^2+20xy + 17y^2 \\ & = & 59\end{eqnarray}$$となる。よって\(\underline{X^2+2Y^2 = 59}\)である。
\((5)\) \((4)\)から\(x, y\)が整数とすると\(X, Y\)も整数である。したがって、\(2Y^2 < 59\)から\(Y^2 = 0, 1, 4, 9, 16, 25\)しかありえないが、このとき順に\(X^2 = 59, 57, 51, 41, 27, 9\)となり、\(X\)が整数になるのは\(X^2 = 9\)のときだけである。このとき\(Y^2 = 25\)で、\((X, Y) = (3, 5), (3, -5), (-3, 5), (-3, -5)\)となる。したがって、$$\begin{eqnarray}\begin{pmatrix}x \\ y\end{pmatrix} & = & \begin{pmatrix}a & b \\c & d\end{pmatrix}\begin{pmatrix}X \\ Y \end{pmatrix}\\ & = & \begin{pmatrix}2 & -3 \\ -1 &2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}X \\ Y \end{pmatrix}\end{eqnarray}$$に順次\(X, Y\)を代入すると、\(\underline{(x, y) = (-9, 7), (21, -13), (-21, 13), (9, -7)}\)となる。
解説
\((1)\) ここで躓くと以下の問題は全く手が出ずに終了となってしまう。与えられた条件を計算すると\(4\)つの式が出てくるがここから出てくるのは\(2\)つの関係式だけである。つまりこの\(4\)つの式からは、\(a, b, c, d\)を決めることができない。そこで問題文に書かれている\(ad-bc = 1\)を用いてみる。上手く\(d, b\)を代入すればそのまま求める式が出てくる。\(ad–bc = 1\)を失念するとどんなに頑張っても、\((1)\)以降を解くことは厳しい。
\((2), (3)\) どのような解き方をしても良いが、\((1)\)の結果を見ると\(a\)あるいは\(c\)は余り大きくなれないことが分かる。\((1)\)の結果\(6a^2+2-ac + 17c^2 = 1\)は楕円の方程式だから\(a, c\)の範囲には制限がある。そこで、\(a\)の二次方程式とみて判別式の条件から\(c\)を求める。\((3)\)から解くと、\((2)\)が何のためにあるのか分からない。\((4)\)は単に計算するだけ。
\((5)\) メインだが、\((4)\)まで解けていれば簡単。計算ミスをしなければ満点を狙うことも可能な問題である。実は\((5)\)は直接解くこともできる。\((5)\)の式を\(x\)の二次方程式とみて判別式が正であるという条件から\(y\)の値が定まるからである。それほど面倒ではないので余裕のあるものはチャレンジしてみるとよい。簡単な問題だが試験場では難しく見えるかもしれない。特に\((1)\)は、条件\(ad-bc = 1\)を見逃し泥沼に嵌ってしまったという受験生も多かったのかも知れない。
関連問題
1991年東京医科歯科大学前期数学問題1 整数と因数分解、素因数
2021年東京工業大学前期数学問題2 楕円と直線
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