問題
\(n\)を\(2\)以上の整数とする。
\((1)\) \(n-1\)次多項式\(P_n(x)\)と\(n\)次多項式\(Q_n(x)\)ですべての実数\(\theta\)に対して$$\sin{(2n\theta) } = n\sin{(2\theta)}P_n(\sin^2{\theta}), \cos{(2n\theta)} = Q_n(\sin^2{\theta})$$を満たすものが存在することを帰納法を用いて示せ。
\((2)\) \(k = 1, 2, \cdots, n-1\)に対して\(\displaystyle a_k = \left(\sin{\frac{k\pi}{2n}}\right)^{-2}\)とおくと$$P_n(x) = (1-a_1x)(1-a_2x)\cdots (1-a_{n-1}x)$$となることを示せ。
\((3)\) \(\displaystyle \sum_{k=1}^{n-1}{a_k} = \frac{2n^2-2}{3}\)を示せ。
方針
バーゼル問題やチェビシェフの多項式を題材にした高度な問題である。
\((2)\) 一般に、整式\(f(x)\)の解が\(p_1, p_2, \cdots, p_n\ \ (p_i \ne 0)\)であるとき、定数\(p\)を用いて$$f(x) = p\left(1-\frac{x}{p_1}\right)\left(1-\frac{x}{p_2}\right)\cdots \left(1-\frac{x}{p_n}\right)$$と表すことができる。
\((3)\) \(P_n(x)\)の\(1\)次の係数を求める。\((1)\)の途中で出てきた\(P_n(x), Q_n(x)\)の式を用いる。
解答
\((1)\) \(n = 2\)のとき、$$\begin{eqnarray}\sin{4\theta} & = & 2\sin{2\theta}\cos{2\theta}\\ & = & 2\sin{2\theta}(1-2\sin^2{\theta})\\ \cos{4\theta} & = & 2\cos^2{2\theta}-1 \\ & = & 2(1-2\sin^2{\theta})^2-1 \\ & = & 8\sin^4{\theta}-8\sin^2{\theta} + 1\end{eqnarray}$$であるから、\(P_2(x) = 1-2x, Q_2(x) = 8x^2-8x+1\)とすれば良い。ある\(n\)で$$\sin{(2n\theta)} = n\sin{(2\theta)}P_n(\sin^2{\theta}), \cos{(2n\theta)} = Q_n(\sin^2{\theta}) \tag{a}$$を満たす\(n-1\)次多項式\(P_n(x)\)と\(n\)次多項式\(Q_n(x)\)が存在すると仮定する。このとき、$$\begin{eqnarray}\sin{(2(n+1)\theta)} & = & \sin{(2n\theta)}\cos{(2\theta)}+\cos{(2n\theta)}\sin{(2\theta)}\\ & = & n\sin{(2\theta)}P_n(\sin^2{\theta})\cos{(2\theta)} + Q_n(\sin^2{\theta})\sin{(2\theta)} \\ & = & \sin{(2\theta)}(nP_{n}(\sin^2{\theta})(1-2\sin^2{\theta})+Q_n(\sin^2{\theta}))\\ \cos{(2(n+1)\theta)} & = & \cos{(2n\theta)}\cos{(2\theta)}-\sin{(2n\theta)}\sin{(2\theta)}\\ & = & Q_n(\sin^2{\theta})(1-2\sin^2{\theta})-n\sin{(2\theta)}P_n(\sin^2{\theta})\sin{(2\theta)}\\ & = & Q_n(\sin^2{\theta})(1-2\sin^2{\theta})-4nP_n(\sin^2{\theta})\sin^2{\theta}(1-\sin^2{\theta})\end{eqnarray}$$であるから、$$\begin{eqnarray}P_{n+1}(x) & = & \frac{1}{n+1}\left(nP_n(x)(1-2x) + Q_n(x)\right) \\ Q_{n+1}(x) & = & Q_n(x)(1-2x) -4nP_n(x)x(1-x)\end{eqnarray} \tag{b}$$と定めれば\(P_{n+1}(x)\)は\(n\)次式で、\(Q_{n+1}(x)\)は\(n+1\)次式となり、式\((a)\)で\(n+1\)としたものを満たす。よって、数学的帰納法から式\((a)\)を満たす関数\(P_n(x), Q_n(x)\)が存在する。
\((1)\) (別解) 式\((a)\)を仮定すると、Eulerの公式から、$$\begin{eqnarray}\cos{(2(n+1)\theta)}+i\sin{(2(n+1)\theta)} & = & (\cos{(2n\theta)} + i\sin{(2n\theta)})(\cos{\theta}+i\sin{\theta})^2 \\ & = & (Q_n(\sin^2{\theta})+in\sin{(2\theta)}P_n(\sin^2{\theta}))(1-2\sin^2{\theta}+i\sin{(2\theta)})\\ & = & (1-2\sin^2{\theta})Q_n(\sin^2{\theta})-n\sin^2{(2\theta)}P_n(\sin^2{\theta})\\ & & + i\sin{(2\theta)}(Q_n(\sin^2{\theta})+nP_n(\sin^2{\theta})(1-2\sin^2{\theta}))\\ & = & (1-2\sin^2{\theta})Q_n(\sin^2{\theta})-4n\sin^2{\theta}(1-\sin^2{\theta})P_n(\sin^2{\theta}) \\ & & + i\sin{(2\theta)}(Q_n(\sin^2{\theta})+n(1-2\sin^2{\theta})P_n(\sin^2{\theta}))\end{eqnarray}$$となるので、式\((b)\)のように定めれば良い。
\((2)\) \(P_{n}(x)\)は\(n-1\)次式だから、複素数の範囲に\(n-1\)個の解をもつ(代数学の基本定理)。\(\sin{(2n\theta)} = n\sin{(2\theta)}P_{n}(\sin^2{\theta})\)であるから、\(\theta \ne 0\)のとき$$\begin{eqnarray}P_n(\sin^2{\theta}) & = & \frac{\sin{(2n\theta)}}{2n\theta}\cdot \frac{2\theta}{\sin{(2\theta)}}\\ & \to & 1\cdot 1 \ \ (\theta \to 0)\\ & = & 1\end{eqnarray}$$である。したがって、\(P_n(0) = 1\)である。\(P_n(\sin^2{\theta}) = 0\)となるのは、\(\displaystyle \sin{(2n\theta)} = 0\)となるときで、それは\(\displaystyle \theta = \frac{k\pi}{2n} \ \ (k = 1, 2, \cdots, n-1)\)のときである。このとき各\(k = 1, 2, \cdots, n-1\)に対して\(\displaystyle \sin{\frac{k\pi}{2n}}\)は異なり、\(P_n(x) = 0\)となる\(x\)は\(\displaystyle x = \sin^2{\theta} = \sin^2{\frac{k\pi}{2n}}\ \ (k = 1, 2, \cdots, n-1)\)である。したがって、\(\displaystyle a_k = \left(\sin{\frac{k\pi}{2n}}\right)^{-2}\)とおくと\(c\)を定数として、$$P_n(x) = c(1-a_1x)(1-a_2x)\cdots (1-a_{n-1}x)$$と表すことができるが、\(P_n(0) = 1\)から\(c = 1\)となり、$$P_n(x) = (1-a_1x)(1-a_2x)\cdots (1-a_{n-1}x)$$となる。
\((3)\) \((2)\)から$$P_n(x) = 1-(a_1+a_2+\cdots +a_{n-1})x + \cdots \tag{c}$$である。また、\(\cos{(2n\theta)} = Q_n(\sin^2{\theta})\)だから、\(\theta = 0\)として\(Q_n(0) = 1\)がわかる。\(P_n(x), Q_n(x)\)の\(x\)の係数をそれぞれ\(c_n, d_n\)とすると、\((1)\)から\(c_2 = -2, d_2 = -8\)である。式\((b)\)から、$$\begin{eqnarray}P_{n+1}(x) & = & \frac{1}{n+1}\left(n(1+c_nx+\cdots)(1-2x) + 1+d_nx+\cdots\right)\\ & = & \frac{1}{n+1}\left(n+1 + (-2n+nc_n+d_n)x+\cdots\right)\\ Q_{n+1}(x) & = & (1+d_nx+\cdots)(1-2x)-4nx(1-x)(1+c_nx+\cdots)\\ & = & 1 + (-2+d_n-4n)x + \cdots\end{eqnarray}$$となるから、$$\begin{cases}\displaystyle c_{n+1} = \frac{-2n+nc_n+d_n}{n+1}\\ d_{n+1} = -2+d_n-4n\end{cases}$$である。下の式から、$$\begin{eqnarray}d_n & = & d_2 -4(1+2+3 + \cdots + n-1-1)-2(n-1-1)\\ & = & -2n^2\end{eqnarray}$$である。これは\(n = 2\)において成り立つ。上の式に代入して、$$c_{n+1} = \frac{-2n+nc_n-2n^2}{n+1}$$である。\(nc_n = e_n\)とすると、\(e_2 = -4\)で、$$e_{n+1} = e_n-2n^2-2n$$となる。したがって、$$\begin{eqnarray}e_n & = & e_2 +\sum_{k=2}^{n-1}{(-2k^2-2k)}\\ & = & -4 – 2\cdot \left(\frac{(n-1)(n)(2n-1)}{6}-1\right)-2\cdot \left(\frac{n(n-1)}{2}-1\right)\\ & = & \frac{-n(2n^2-2)}{3}\end{eqnarray}$$となるから、\(\displaystyle c_n = -\frac{2n^2-2}{3}\)である。\(P_n(x) = 1+c_nx + \cdots\)であったから、式\((c)\)と見比べて、\(\displaystyle \sum_{k=1}^{n-1}{a_k} = \frac{2n^2-2}{3}\)がわかる。
解説
チェビシェフの多項式については、以下の関連問題も参照すると良い。\((1), (2)\)も相当手強いが、\((1)\)は解法が指定されているのでなんとか解きたい。\((2)\)はこういう考え方もあるのだと知れば良い。ちなみに、Eulerは\(\sin{x}\)を無限積で表した$$\sin{x} = x\left(1-\frac{x^2}{{\pi}^2}\right)\left(1-\frac{x^2}{{2\pi}^2}\right)\left(1-\frac{x^2}{{3\pi}^2}\right)\cdots$$と、Talyor展開した$$\sin{x} = x-\frac{x^3}{3!}+\cdots$$において、\(x^3\)の係数を比較し、\(\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}{\frac{1}{n^2}} = \frac{{\pi}^2}{6}\)を得た。
\((3)\)では色々な解法が考えられるが、\(P_n(x), Q_n(x)\)の\(x\)の係数を用いて、漸化式を作っている。\(c_n, d_n\)の漸化式を解くことになるが、これも重厚で骨の折れる作業である。数列の漸化式の解法のエッセンスが含まれるので、よく復習したい問題である。
関連問題
1990年東京大学理系前期数学問題2 チェビシェフの多項式、難問
1991年東京大学理系数学問題4 チェビシェフの多項式
1996年京都大学理系後期数学問題1 チェビシェフの多項式
1999年前期京都大学理系数学問題3 ゼータ関数の特殊な値と積分評価について
2004年東京医科歯科大学前期数学問題1 方程式と三角関数の周期性、チェビシェフの多項式
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