[math][東京工業大学][空間]2019年東京工業大学数学問題4

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問題

\(H_1, \cdots, H_n\)を空間内の相異なる\(n\)枚の平面とする。\(H_1, \cdots, H_n\)によって空間が\(T(H_1, \cdots, H_n)\)個の空間領域に分割されるとする。例えば、空間の座標を\((x, y, z)\)とするとき
\(\bullet\) 平面\(x = 0\)を\(H_1\)、平面\(y = 0\)を\(H_2\)、平面\(z = 0\)を\(H_3\)とすると\(T(H_1, H_2, H_3) = 8\)、
\(\bullet\) 平面\(x = 0\)を\(H_1\)、平面\(y = 0\)を\(H_2\)、平面\(x+y = 1\)を\(H_3\)とすると\(T(H_1, H_2, H_3) = 7\)、
\(\bullet\) 平面\(x = 0\)を\(H_1\)、平面\(x = 1\)を\(H_2\)、平面\(y = 0\)を\(H_3\)とすると\(T(H_1, H_2, H_3) = 6\)、
\(\bullet\) 平面\(x = 0\)を\(H_1\)、平面\(y = 0\)を\(H_2\)、平面\(z = 0\)を\(H_3\)、平面\(x+y+z = 1\)を\(H_4\)とすると\(T(H_1, H_2, H_3, H_4) = 15\)、
である。
\((1)\) 各\(n\)に対して\(T(H_1, \cdots, H_n)\)のとりうる値のうち最も大きいものを求めよ。
\((2)\) 各\(n\)に対して\(T(H_1, \cdots, H_n)\)のとりうる値のうち\(2\)番目に大きいものを求めよ。ただし\(n\geq 2\)とする。
\((3)\) 各\(n\)に対して\(T(H_1, \cdots, H_n)\)のとりうる値のうち\(3\)番目に大きいものを求めよ。ただし\(n\geq 3\)とする。

方針

まずは\(1\)次元(直線)で考えてみる。直線上に\(n\)個の異なる点があるとき、直線は\(n + 1\)個に分割される。\(1\)次元の場合、点の数が\(n\)個のときの領域の最大数を\(d(n)\)とすると、$$\begin{cases}d(0) & = & 1\\ d(n) & = & d(n-1) + 1\end{cases}$$となる。これから\(d(n) = n+1\ \ (n=0, 1, \cdots)\)が分かる。

\(1\)次元の場合。

\(2\)次元(平面)に互いに平行でなく、同じ\(1\)点で\(2\)個以上の直線が交わらず、また相異なる\(n\)個の直線があるとする。このとき新たな直線を引くと、\(n\)個の点が新たに生じ、新しく引いた直線は\(n+1\)個に分割される。つまり、その\(n+1\)個の線分は、それぞれ既存の領域を\(2\)つの領域に分割するので、\(n+1\)個の新しい領域が作られることになる。直線の数が\(0\)本のときは領域は\(1\)つ、直線の数が\(1\)本のときは領域は\(1+1 = 2\)つ、直線の数が\(2\)本のときは領域は\(1+1+2 = 4\)つ、直線の数が\(3\)本のときは領域は\(1+1+2+3 = 7\)つとなる。

直線の数領域の数
\(0\)\(1\)
\(1\)\(1+1 = 2\)
\(2\)\(1+1+2 = 4\)
\(3\)\(1 + 1 + 2 + 3 = 7\)
\(4\)\(1+1+2+3+4 = 11\)
\(\cdots\)
直線の数と\(2\)次元での領域の数。

これも漸化式で書いてみよう。直線の数が\(n\)個のとき、領域の最大数を\(r(n)\)とすると、$$\begin{cases}r(0) & = & 1\\ r(n) & = & r(n-1) + d(n-1)\\ & = & r(n-1)+n\end{cases}$$である。一般に直線の数が\(n\)本のとき、領域の個数の最大値は$$r(n) = 1+(1+2+3+\cdots + n) = 1+\frac{n(n+1)}{2}$$個となる。

\(2\)次元の場合。

\(3\)次元ではどうなるだろうか。\(n\)個の平面で分割される領域の最大値が分かっていて、\(n+1\)個の平面を追加したときに追加される領域の個数が知りたいとする。\(n+1\)番目の平面は\(n\)個の平面すべてにぶつかり、平面は\(n\)個の直線が作る領域の数\(\displaystyle 1+\frac{n(n+1)}{2}\)個に分割される。平面領域はそれぞれ体積領域を\(2\)つに分割するので、\(3\)次元の場合は以下の表のように空間が分割されることになる。

平面の数領域の数
\(0\)\(1\)
\(1\)\(1+1=2\)
\(2\)\(1+1+2 = 4\)
\(3\)\(1+1+2+4 = 8\)
\(4\)\(1+1+2+4+7 = 15\)
\(5\)\(1+1+2+4+7+11 = 26\)
\(6\)\(1+1+2+4+7+11+16 = 42\)
\(\cdots\)
平面の数と\(3\)次元での領域の数。

平面の数が\(n\)個のとき、領域の最大数を\(p(n)\)とすると、$$\begin{cases}p(0) & = & 1\\ p(n) & = & p(n-1) + r(n-1)\\ & = & \displaystyle p(n-1)+1+\frac{n(n+1)}{2}\end{cases}$$である。以上から、\(T(H_1, \cdots, H_n)\)の最大値は$$\begin{eqnarray}p(n) & = & 1+\sum_{i=0}^{n-1}{\left(1+\frac{i(i+1)}{2}\right)} \\ & = & 1+n + \frac{1}{6}\sum_{i=0}^{n-1}{\left(i(i+1)(i+2)-(i-1)i(i+1)\right)}\\ & = & n+1+\frac{1}{6}\cdot (n-1)n(n+1)\\ & = & \frac{n^3+5n+6}{6}\end{eqnarray}$$となる。

解答

\((1)\) 上記から、\(\displaystyle \underline{\frac{n^3+5n+6}{6}}\)となる。これは\(n = 1\)でも成り立つ。

\((2)\) \((1)\)から、空間を\(\displaystyle \frac{n^3+5n}{6}\)個に分割することができれば、それが\(2\)番目に大きいものとなる。まず最初に\(n\geq 4\)のときを考える。\(n-1\ \ (n\geq 4)\)個の平面が\((1)\)の最大値をとるように配置されており、そこに\(n\)番目の平面\(H_n\)を追加することを考える。方針で述べたことから最初の空間の領域の個数は\(\displaystyle p(n-1) = \frac{(n-1)^3+5(n-1)+6}{6}\)個である。ここに\(H_n\)を追加したとき\(H_n\)は\(n-1\)個の平面にぶつかり\(n-1\)本の直線が形成されるが、これを順に\(l_1, l_2, \cdots, l_{n-1}\)とする。ここで\(l_{n-2}\)と\(l_{n-1}\)が平行になるように\(H_n\)を追加する。

\(l_{n-2}\)と\(l_{n-1}\)が平行になるように平面を追加する。

すると、\(H_n\)はまず\(l_1, l_2, \cdots, l_{n-2}\)によって\(\displaystyle r(n-2) = 1+\frac{(n-2)(n-1)}{2}\)個に分割され、さらに\(l_{n-1}\)は\(l_{n-2}\)以外の\(n-3\)本の直線によって\(d(n-3) = n-2\ \)個に分割されることで、\(H_n\)にこの個数だけ領域を追加する。したがって、このときの空間の分割個数は$$\begin{eqnarray}p(n-1)+r(n-2) + d(n-3) & = & \frac{(n-1)^3+5(n-1)+6}{6}+1+\frac{(n-2)(n-1)}{2}+n-2 \\ & = & \underline{\frac{n^3+5n}{6}}\end{eqnarray}$$であり、\((1)\)の答えよりも\(1\)だけ小さいので、これが\((2)\)の答えになる。なお、\(n = 2\)のときこの値は\(3\)となるが、これは\(2\)つの平面を平行にとることで実現されるので\(n = 2\)でも成立する。さらに、\(n = 3\)のときにこの値は\(7\)となるが、これが実現可能なことは問題文の例の通りであり、\(n = 3\)でも成立する。

\((3)\) \((1), (2)\)から、空間を\(\displaystyle \frac{n^3+5n-6}{6}\)個に分割することができれば、それが\(3\)番目に大きいものとなる。まず最初に\(n\geq 5\)のときを考える。\(n-1\ (n\geq 5)\)個の平面が\((2)\)の二番目に大きい値をとるように配置されており、そこに\(n\)番目の平面\(H_n\)を追加することを考える。\((2)\)からこのときの空間の領域の個数は\(\displaystyle p(n-1)-1 = \frac{(n-1)^3+5(n-1)}{6}\)個である。ただし、\(n-1\)番目の平面\(H_{n-1}\)が残り\(n-2\)個の平面とぶつかり\(n-2\)本の直線が形成されるが、これを順に\(l_1, l_2, \cdots, l_{n-2}\)としておく。また、\(l_{n-3}\)と\(l_{n-2}\)は平行であるものとする。ここに\(H_n\)を追加する。

この追加の仕方が肝になる。

\(H_n\)は\(n-1\)個の平面にぶつかり\(n-1\)本の直線が形成されるが、これを順に\(m_1, m_2, \cdots, m_{n-1}\)とする。ここで、\(m_{n-4}\)と\(m_{n-3}\)が平行になるように平面を追加する。注意すべきは、\(m_{n-2}\)と\(m_{n-1}\)が平行になるように取らないということである。すると、\(H_n\)は\((2)\)で見たように\(r(n-2)+d(n-3)\)個に分割される。したがって、空間の分割個数は$$\begin{eqnarray}p(n-1)-1+r(n-2)+d(n-3) & = & \frac{(n-1)^3+5(n-1)}{6}+1+\frac{(n-2)(n-1)}{2}+n-2\\ & = & \underline{\frac{n^3+5n-6}{6}}\end{eqnarray}$$となる。\((2)\)の答えよりもさらに\(1\)だけ小さいので、これが\((3)\)の答えになる。ただし、\(n\geq 5\)である。\(n = 3, 4\)については個別に考えよう。\(n = 3\)のときに\(\displaystyle \frac{3^3+5\cdot 3-6}{6} = 6\)とできることは問題文の通りである。\(n = 4\)のときに\(\displaystyle \frac{4^3+5\cdot 4-6}{6} = 13\)とできるか考える。

\(n = 3\)のときに\(T(H_1, H_2, H_3)\)の取りうる値の数は、\((a)\ 4, (b)\ 5, (c)\ 6, (d)\ 8, (e)\ 7\)である。
\(\ \ (a)\ T(H_1, H_2, H_3) = 4, 5, 6\)のとき、\(H_4\)を追加すると、新たに追加される空間の個数は多くとも\(1+2+3 = 6\)個なので、\(T(H_1, H_2, H_3, H_4) = 13\)とはならない。
\(\ \ (b)\ T(H_1, H_2, H_3) = 8\)のとき、\(H_4\)は\(3\)直線によって\(5\)分割されなくてはならないが、\(3\)直線が平面を分割する方法は\(3\)個(全部平行)か、\(6\)個(\(2\)直線が平行か、\(3\)直線が\(1\)点で交わる)か、\(7\)個のみである(下図参照)。したがってこのときに\(T(H_1, H_2, H_3, H_4) = 13\)となることはない。

\(3\)直線の交わり方。


\(\ \ (c)\ T(H_1, H_2, H_3) = 7\)のとき、\(H_4\)は\(3\)直線によって\(6\)分割されなくてはならないが、この場合\(3\)直線のうち\(2\)直線が平行か、\(3\)直線が\(1\)点で交わる必要がある。ところが、\(2\)直線が平行なとき、残りの\(1\)直線もその他の直線に平行になる。また、\(3\)直線が\(1\)点で交わるとき、\(T(H_1, H_2, H_3) = 7\)とはなりえない(上図の\(n = 3, r = 6\)も参照)。

以上から、\(T(H_1, H_2, H_3, H_4) = 13\)となることはなく、\(T(H_1, H_2, H_3, H_4) = 12\)は実現可能(例えば\(H_1:\ x = 0, H_2:\ y = 0, H_3:\ x+y = 0, H_4:\ z = 2\)とすればよい)であるから、求める答えは$$\underline{\begin{cases}\displaystyle \frac{n^3+5n-6}{6}\ \ (n = 3, \geq 5)\\ 12 \ \ (n = 4)\end{cases}}$$となる。

\(x = 0, y = 0, x+y = 0, z = 2\)のとき\(T(H_1, H_2, H_3, H_4) = 12\)とすることができる。

解説

基本的に漸化式の問題であると考えられるが、\((3)\)が異常に難しい。\((1)\)の考え方だけでも理解できれば復習として十分だろう。

\((1)\) 実は\((1)\)の答えは$$\begin{pmatrix}n \\ 0\end{pmatrix} + \begin{pmatrix}n\\ 1 \end{pmatrix} + \begin{pmatrix}n\\ 2\end{pmatrix} + \begin{pmatrix}n\\3\end{pmatrix} = \frac{n^3+5n+6}{6}$$となっている。この解釈について色々考察してみるのも面白いかもしれない。

\((2)\) \((1)\)が解決できれば答えの予想はできるが、論証は難しい。ポイントは平面を平行に置くのではなく、平面が交わってできる直線を平行にすることである。この発想がまず普通には出てこない。

\((3)\) 京都大学の特色入試で出題されるようなレベルの問題で、試験場の制限時間内に解き切るのは難しい。\((1), (2)\)の利用を考えたいが、\(n = 4\)で大きな落とし穴がある。\(T(H_1, H_2, H_3, H_4) = 13\)とならないことを示せ、という問題だけで十分超難関大学の入試問題になるだろう。

関連問題

1993年東京大学理系前期数学問題5 確率と漸化式、個別に考える
2006年東京大学前期理系問題1 ベクトルと漸化式、座標
1995年東京医科歯科大学数学問題2 数列と漸化式

関連リンク

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