[math]2006年度前期東京大学数学問題5

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問題

\(a_1 = \frac{1}{2}\)とし、数列\(\{a_n\}\)を漸化式$$a_{n+1} = \frac{a_{n}}{(1+a_n)^2}\ (n=1,\ 2,\ 3,\ \cdots)$$によって定める。このとき、以下の問いに答えよ。
\((1)\) 各\(n = 1,\ 2,\ 3,\ \cdots\)に対し、\(b_n = \frac{1}{a_n}\)とおく。\(n > 1\)のとき\(b_n > 2n\)となることを示せ。
\((2)\) \(\displaystyle{\lim_{n\to\infty}{\frac{a_1+a_2+\cdots + a_n}{n}}}\)を求めよ。
\((3)\) \(\displaystyle{\lim_{n\to\infty}{na_n}}\)を求めよ。

方針

\((2)\)は難しい。取りあえず\((1)\)で出た不等式を用いると、\(\displaystyle{\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}{\frac{1}{k}}}\)が\(0\)に収束するのであれば求める極限が\(0\)になることが分かる。この極限の求め方が問題になる。

解答

\((1)\) \(a_1 = \frac{1}{2}\)と\(a_{n+1} = \frac{a_n}{(1+a_n)^2}\)より帰納的に\(a_n\)は正となる。与えられた漸化式の逆数をとると、$$\begin{eqnarray}\frac{1}{a_{n+1}} & = & \frac{(1+a_n)^2}{a_n}\\ & = & \frac{1}{a_n} + 2 + a_n\end{eqnarray}$$となる。これから、\(b_{n+1}= b_n+2+\frac{1}{b_n}\)となる。帰納法で\(b_n > 2n (n>1)\)を示す。\(b_2 = 2 + 2 + \frac{1}{2} > 2\cdot 2 \)である。\(n = k\)の時に成り立つとすると、$$\begin{eqnarray}b_{k+1} & = & b_k + 2 + \frac{1}{b_k} \\ & > & 2k+2 + \frac{1}{b_k} \\ & > & 2(k+1)\end{eqnarray}$$で、\(n = k + 1\)の時も題意が成り立つ。

\((2)\) \((1)\)から\(a_k < \frac{1}{2k} (k = 1, 2, 3, \cdots)\)だから、$$\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}{a_k} < \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}{\frac{1}{2k}}$$である。ここで、平均値の定理から、\(\log{(k+1)}-\log{k} = \frac{1}{c}\)を満たす\(c\)が\(k\)と\(k+1\)の間に存在する。\(\frac{1}{c} > \frac{1}{k+1}\)であるから、$$\log{(k+1)}-\log{k} > \frac{1}{k+1}$$である。\(k=1,\ 2,\ 3,\ \cdots,\ n\)として足すと、$$\log{(n+1)} > \sum_{k=1}^{n}{\frac{1}{k+1}}$$だから、$$\begin{eqnarray}\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}{a_k} < \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}{\frac{1}{2k}} \\ & = & \frac{1}{2n}\sum_{k=1}^{n}{\frac{1}{k+1}}+\frac{1}{2n}-\frac{1}{2n}\cdot \frac{1}{n+1} \\& < & \frac{\log{(n+1)}}{2n}+\frac{1}{2n}-\frac{1}{2n}\cdot \frac{1}{n+1} \\ & \to & 0 (n\to \infty)\end{eqnarray}$$である。ただし、\(\frac{\log{n}}{n}\to 0\ (n\to \infty)\)であることを用いた。これと、\(\displaystyle{\sum_{k=1}^{n}{a_k} > 0}\)であることから、\(\displaystyle{\lim_{n\to\infty}{\frac{a_1+a_2 + \cdots + a_n}{n}} = 0}\)である。

\((3)\) \((1)\)から\(b_{k+1}-b_k = 2 + a_k\)だから、\(k=1,\ 2,\ 3,\ \cdots, n-1\)として辺ごとに足すと、$$b_{n}-b_1 = 2(n-1) + \sum_{k=1}^{n-1}{a_k}$$となる。\(b_1 = 2\)に注意して、両辺に\(a_n\)を足してから全体を\(n\)で割ると、$$\frac{b_n}{n} + \frac{a_n}{n} = 2 + \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}{a_k}$$である。したがって、$$\begin{eqnarray}\frac{b_n}{n} & = & \frac{1}{na_n} \\ & = & 2 + \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}{a_k}-\frac{a_n}{n}\end{eqnarray}$$となる。\(a_n > 0\)と\((1)\)から、\(\frac{a_n}{n} < \frac{1}{2n^2}\)であることを合わせて、\(\frac{a_n}{n}\to 0 (n\to\infty)\)で、\((2)\)から\(\displaystyle{\frac{a_1+a_2 + \cdots +a_n}{n}\to 0 (n\to\infty)}\)であるから、\(\displaystyle{\frac{1}{na_n}\to 2 (n\to \infty)}\)である。よって、\(\displaystyle{\lim_{n\to\infty}{na_n} = \frac{1}{2}}\)となる。

解説

超難問で、よく見たことのあるタイプの問題だと思って迂闊に手を出すと痛い目を見てしまう問題である。

\((1)\)から見ていく。これは東大理系としてはまだ標準的な問題であり、帰納法で無理なく解くことができる。この時点で、\(\frac{1}{a_n} > 2n\)、すなわち\(a_n < \frac{1}{2n}\)と、\(a_n > 0\)であることからはさみうちの原理より、\(a_n \to 0 (n\to \infty)\)が分かる。

\((2)\) \(\displaystyle{\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}{\frac{1}{k}}}\)が\(0\)に収束することだが、解答では平均値の定理を用いている。他に、\(y = \frac{1}{x}\)のグラフを書いて面積を考えて積分の不等式を使っても良い。また、$$1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3} + \cdots +\frac{1}{n}-\log{n}$$はオイラーの定数という一定の値\(C\)に収束することが知られている。このことがわかっていれば、$$\frac{1}{n}\left(1+\frac{1}{2}+\cdots + \frac{1}{n}\right)$$はおよそ\(\frac{\log{n} + C}{n}\)となり、\(n\to \infty\)で\(0\)に収束することが見て取れる。いずれにせよ予測していないと結論を導くのが難しい。

なお、大学で習う知識であるが、\(\displaystyle{\lim_{n\to\infty}{a_n} = \alpha}\)の時に、\(\displaystyle{\lim_{n\to\infty}{\frac{a_1 + a_2 + \cdots + a_n}{n}} = \alpha}\)であることが知られている。大学受験の解答では用いないほうがいいが、暗算には役に立つ。

\((3)\)はさらに難しく、巧妙な式変形と、\((1)\)で導いた漸化式の利用が必要となる。簡単に解けそうなのに手が全然動かずに,もどかしい思いをした受験生も多かったことだろう。本番でこのような問題に時間を取られてしまうと、簡単な問題すら落としてしまうことになりかねない。ちょっと歯が立たなさそうだなと感じたら固執せずに、試験本番では易しい問題から解く方がよい。一点でも多くの点数をとるのが入試では大切なのだから。

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