問題
同一平面上に\(2\)つの三角形\(ABC, A^{\prime}B^{\prime}C^{\prime}\)があり、それぞれの外接円の半径は共に\(1\)であるとする。この\(2\)つの外接円の中心を結ぶ線分の中点を\(M\)、線分\(AA^{\prime}, BB^{\prime}, CC^{\prime}\)の中点をそれぞれ\(P, Q, R\)とする。
\((1)\) \(MP\leq 1, MQ\leq 1, MR\leq 1\)となることを示せ。
\((2)\) もし\(PQR\)が鋭角三角形でその外接円の半径が\(1\)となるならば、点\(M\)はこの外接円の中心と一致することを示せ。さらにこのとき\(ABC, A^{\prime}B^{\prime}C^{\prime}, PQR\)はすべて合同になることを示せ。
方針
\((1)\) は三角不等式を用いる。
解答
\((1)\) \(xy\)平面上で三角形\(ABC\)の外心を\(O\)、三角形\(A^{\prime}B^{\prime}C^{\prime}\)の外心を\(O^{\prime}\)とする。このとき、\(\displaystyle \overrightarrow{OM} = \frac{\overrightarrow{OO^{\prime}}}{2}, \overrightarrow{OP} = \frac{\overrightarrow{OA} + \overrightarrow{OA^{\prime}}}{2}\)であるから、\(\displaystyle \overrightarrow{MP} = \frac{\overrightarrow{OA}+\overrightarrow{OA^{\prime}}-\overrightarrow{OO^{\prime}}}{2} = \frac{\overrightarrow{OA} + \overrightarrow{O^{\prime}A^{\prime}}}{2}\)となる。\(|\overrightarrow{OA}| = 1, |\overrightarrow{O^{\prime}A^{\prime}}| = 1\)だから、三角不等式を用いて、$$\begin{eqnarray}|\overrightarrow{MP}| & = & \left|\frac{\overrightarrow{OA} + \overrightarrow{O^{\prime}A^{\prime}}}{2}\right|\\ & \leq & \frac{|\overrightarrow{OA}| + |\overrightarrow{O^{\prime}A^{\prime}}|}{2}\\ & = & 1\end{eqnarray}$$となる。同様に、\(|\overrightarrow{MP}|\leq 1, |\overrightarrow{MR}|\leq 1\)も成立する。
\((2)\) このとき、三角形\(PQR\)の外接円の中心を\(S\)とすると、\((1)\)の結果から$$|\overrightarrow{SP}-\overrightarrow{SM}|\leq 1 \tag{a}\label{a}$$である。\(|\overrightarrow{SP}| = 1\)に注意して、\eqref{a}の両辺を二乗して整理すると、$$|\overrightarrow{SM}|^2 \leq 2\overrightarrow{SP}\cdot \overrightarrow{SM} = 2|\overrightarrow{SM}|\cos{\angle{PSM}} \tag{b}\label{b}$$となる。同様に、$$|\overrightarrow{SM}|^2 \leq 2\overrightarrow{SQ}\cdot \overrightarrow{SM} = 2|\overrightarrow{SM}|\cos{\angle{QSM}} \tag{c}\label{c}$$ $$|\overrightarrow{SM}|^2 \leq 2\overrightarrow{SR}\cdot \overrightarrow{SM} = 2|\overrightarrow{SM}|\cos{\angle{RSM}} \tag{d}\label{d}$$となる。仮に\(M\ne S\)とすると、\(|\overrightarrow{SM}|\ne 0\)であるから、式\eqref{b}, \eqref{c}, \eqref{d}から$$\begin{cases}|\overrightarrow{SM}|\leq \cos{\angle{PSM}}\\ |\overrightarrow{SM}|\leq \cos{\angle{QSM}}\\ |\overrightarrow{SM}|\leq \cos{\angle{RSM}}\end{cases} \tag{e}\label{e}$$である。さて、三角形\(PQR\)は鋭角三角形であるから、点\(S\)は三角形\(PQR\)の内部にある。したがって、\(\angle{PSM} =\alpha, \angle{QSM} = \beta, \angle{RSM} = \gamma\)とすると、\(\alpha + \beta + \gamma = 360^\circ\)である。
また、\(0^\circ < \angle{PRM} < 90^\circ\)だから、\(0^\circ < \alpha(= 2\angle{PRM}) < 180^\circ\)で、同様に\(0^\circ<\beta < 180^\circ, 0^\circ < \gamma < 180^\circ\)である。ここで、\(\alpha, \beta, \gamma\)がすべて\(0^\circ\)以上\(90^\circ\)未満だとすると、\(\alpha+\beta + \gamma < 270^\circ\)となり、\(\alpha+\beta + \gamma = 360^\circ\)に反する。よって、少なくとも一つの角は\(90^\circ\)よりも大きいから、その\(\cos\)は負になる。ところが、このとき式\eqref{e}から\(|\overrightarrow{SM}|\leq 0\)となり矛盾である。したがって、\(S\neq M\)と仮定したことが間違いであり、背理法から\(S = M\)が分かる。
以上から前半が示せたので、後半も示す。前半から、\(|\overrightarrow{MP}| = 1\)となるから、\((1)\)の三角不等式より$$\left|\frac{\overrightarrow{OA} + \overrightarrow{O^{\prime}A^{\prime}}}{2}\right|\leq \frac{|\overrightarrow{OA}| + |\overrightarrow{O^{\prime}A^{\prime}}| }{2}$$において、等号が成立する。つまり、\(\overrightarrow{OA}\)と\(\overrightarrow{O^{\prime}A^{\prime}}\)は向きが等しい。この二つのベクトルの大きさはともに\(1\)であったから、この二つのベクトルが等しいことがわかる。同様に\(\overrightarrow{OB} = \overrightarrow{O^{\prime}B^{\prime}}, \overrightarrow{OC} = \overrightarrow{O^{\prime}C^{\prime}}\)であるから、三角形\(ABC\)と\(A^{\prime}B^{\prime}C^{\prime}\)は合同である。よって、その各々の中点から作られる三角形\(PQR\)も同じ三角形になる。
解説
鋭角三角形という条件が何を意味するのか分かっても中々一筋縄ではいかない。鋭角三角形ならば外心は三角形の内部にあるというのは中学校の基本事項であるが、図を書いて中心角を眺めると当然だということはすぐに分かると思う。解答の式\eqref{e}までは導けてもそこで手が止まってしまったものが少なくなかったのではと思われる。じっくり式\eqref{e}と書いた図を眺めると、\(\cos\)のどれかは負になりそうだということに気がつく。あとはこれを落ち着いて示せれば\(\cdots\)であろう。
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