問題
空間に原点を始点とする長さ\(1\)のベクトル\(\overrightarrow{a}, \overrightarrow{b}, \overrightarrow{c}\)がある。\(\overrightarrow{a}, \overrightarrow{b}\)のなす角を\(\gamma\)、\(\overrightarrow{b}, \overrightarrow{c}\)のなす角を\(\alpha\)、\(\overrightarrow{c}, \overrightarrow{a}\)のなす角を\(\beta\)とするとき、次の関係式の成立することを示せ。またここで等号の成立するのはどのような場合か。$$0\leq \cos^2{\alpha} + \cos^2{\beta}+\cos^2{\gamma}-2\cos{\alpha}\cos{\beta}\cos{\gamma}\leq 1$$
方針
座標設定する気になれたかどうか\(\cdots\)
解答
一般性を失うことなく、\(\overrightarrow{a} = (1, 0, 0), \overrightarrow{b} = (\cos{\gamma}, \sin{\gamma}, 0)\)と置くことができる。\(\overrightarrow{c} = (x, y, z)\ \ (x^2+y^2+z^2=1)\)とすると、\(\overrightarrow{b}\cdot \overrightarrow{c} = |\overrightarrow{b}||\overrightarrow{c}|\cos{\alpha} = \cos{\alpha}\)なので、$$x\cos{\gamma}+y\sin{\gamma} = \cos{\alpha} \tag{a}\label{a}$$である。また、\(\overrightarrow{c}\cdot \overrightarrow{a} = |\overrightarrow{c}||\overrightarrow{a}|\cos{\beta} = \cos{\beta}\)なので、\(x=\cos{\beta}\)となる。したがって、$$\begin{eqnarray}& & \cos^2{\alpha}+\cos^2{\beta}+\cos^2{\gamma}-2\cos{\alpha}\cos{\beta}\cos{\gamma} \\ & = & (x\cos{\gamma}+y\sin{\gamma})^2+x^2+\cos^2{\gamma}-2(x\cos{\gamma}+y\sin{\gamma})\cos{\beta}\cos{\gamma}\\ & = & x^2\cos^2{\gamma}+2xy\cos{\gamma}\sin{\gamma}+y^2\sin^2{\gamma}+x^2+\cos^2{\gamma}-2x^2\cos^2{\gamma}-2xy\cos{\gamma}\sin{\gamma}\\ & = & x^2(1-\cos^2{\gamma}) + y^2\sin^2{\gamma} + \cos^2{\gamma}\\ & = & (x^2+y^2)\sin^2{\gamma}+\cos^2{\gamma} \geq 0 \tag{b}\label{b}\end{eqnarray}$$である。また、$$\begin{eqnarray}1-(x^2+y^2)\sin^2{\gamma}-\cos^2{\gamma} & = & \sin^2{\gamma}(1-x^2-y^2)\\ & = & z^2\sin^2{\gamma} \geq 0 \tag{c}\label{c}\end{eqnarray}$$である。以上から$$0\leq \cos^2{\alpha}+\cos^2{\beta}+\cos^2{\gamma}-2\cos{\alpha}\cos{\beta}\cos{\gamma}\leq 1$$が成り立つ。等号が成立するのは、式\eqref{b}で\(\cos^2{\gamma} = 0\)が必要で、このとき\(\sin^2{\gamma} = 1\)となるから、改めて式\eqref{b}で\(x^2+y^2 = 0\)が必要である。つまり\(x = y = 0\)である。このとき\(z = \pm1\)となる。つまり、\(\overrightarrow{a} = (1, 0, 0)\)に対して、\(\overrightarrow{b} = (0, \pm1, 0), \overrightarrow{c} = (0, 0, \pm1)\)(複号任意)となるので、等号が成立するのは\(\overrightarrow{a}, \overrightarrow{b}, \overrightarrow{c}\)が互いに直交するときである。
また、式\eqref{c}で等号が成立するのは、\(z = 0\)または\(\sin{\gamma} = 0\)が必要である。\(z = 0\)のとき、ベクトル\(\overrightarrow{a}, \overrightarrow{b}, \overrightarrow{c}\)は同一平面上にある。\(\sin{\gamma} = 0\)のとき、\(\cos^2{\gamma} = 1\)で、\(\overrightarrow{b} = (\pm 1, 0, 0)\)となる。すると、式\eqref{a}から\(x = \pm\cos{\alpha}\)であるが、\(x = \cos{\beta}\)でもあるから、\(\pm\cos{\alpha}=\cos{\beta}\)となる。ただし、\(\cos{\gamma} = 1\)のとき\(\cos{\alpha}=\cos{\beta}\)で、\(\cos{\gamma} = -1\)のとき\(\cos{\alpha} = -\cos{\beta}\)である。このとき、$$\begin{eqnarray} & &\cos^2{\alpha}+\cos^2{\beta}+\cos^2{\gamma}-2\cos{\alpha}\cos{\beta}\cos{\gamma}\\ & = & 2\cos^2{\alpha}+1- 2\cos{\alpha}\cdot (\pm\cos{\beta})\cdot (\pm -1) \\ & = & 1 \end{eqnarray}$$であるから、等号が成り立つ。よって、等号が成立するのは\(\overrightarrow{a}, \overrightarrow{b}, \overrightarrow{c}\)が一次独立でないときである。
解説
座標設定をする気になったかどうかで勝負が分かれる。問題に現れる\(\cos\)の式は複雑であまり見かけない形である。身近でないものに対しては、身近で十分親しんでいる座標に載せてしまえば良い。妙に拘って図形的に考えようとしたりベクトルを無理に使おうとすると泥沼になる。等号成立はやや考えさせられますが文字で置くと比較的考えやすい。ちなみに座標設定せず、\(\cos\)のまま不等式を示すことは不可能ではないが、その場合等号成立条件を正確に求めるのはかなり困難である。
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