著者
逢坂冬真という方の本。これがデビュー作というから驚き。
会社づとめをしながら夜の時間を執筆にあて、10年間かけて作品を作り上げたという。
本書について
本屋大賞を受賞し、またNHKのニュースでも取り上げられている。自分が知ったのは、朝のニュースで見て興味を持ったから。今や芥川賞や直木賞の受賞作を気にすることはなくなったけれど、本屋大賞の受賞作は面白いのが多いので読んでしまう。
内容について
第二次世界大戦中の旧ソ連とドイツとの戦争を描いた作品。敗走したドイツ兵によって母親を含め故郷の村人が惨殺された主人公セラフィマの物語。殺される直前で命を救われたセラフィマは赤軍教官のイリーナに「戦いたいか、死にたいか」と問いかけられ、復習のため狙撃兵になることを決意する。
泥まみれの戦争の中で同じ境遇の女性との交わりを通じてセラフィマの視点からストーリーが展開される。
セラフィマの戦争体験、半生が描写されており、エピローグも含め圧巻される。
セラフィマが戦争から学び取ったことは、八百メートル向こうの敵を撃つ技術でも、戦場であらわになる究極の心理でも、拷問の耐え方でも、敵との駆け引きでもない。
命の意味だった。
失った命は元にもどることはなく、代わりになる命も存在しない。
学んだことがあるならば、ただこの率直な事実、それだけを学んだ。
「同士少女よ敵を撃て」より
感想
様々な正義がモザイク状に描かれていて、素晴らしいの一言。女性や子供の視点で戦争がどういったものなのかを描いた作品。自分は1940年代の歴史や旧ソ連についてほとんど知識がないけれど、引きずり込まれるように読んでしまった。
以前読んだ大好きなマイナー漫画、国境を駆ける医師イコマで、臨床心理学者のDaneshという人の言葉でこんなものがあった。
戦争を経験した国の多くは、「勝てば官軍」じゃないけど、弱肉強食型の社会になる傾向が強いんだ。「人の心配より自分の心配」というのが先に立って、それがすこしずつ増大し、しまいには「手段は関係ない。自分さえよければいいんだ」という考えが蔓延するようになる。結果、弱者に対する犯罪や暴力が増えるんだ。レイプもそうだし、学校や会社でのイジメもそう。家庭内暴力も増える。
H. B. Danesh
この人はボスニア戦争後に平和教育に関するプログラムを提供するNPOを設立している。
戦争を経験した日本の場合はどうだろうか。
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