問題
\(2\)次正方行列\(\displaystyle \begin{pmatrix}a & b \\ c & d\end{pmatrix}\)のうち、次の\(3\)条件\((i), (ii), (iii)\)を満たすもの全体の集合を\(M\)とする。
\((i)\)\(a, b, c, d\)はすべて整数
\((ii)\) \(b + c = 0\)
\((iii)\) \(a-b-d = 0\)
また\(E\)を\(2\)次単位行列とする。このとき以下の各問いに答えよ。
\((1)\) 行列\(A, B\)がともに\(M\)の要素であるとき、それらの積\(AB\)も\(M\)の要素であることを示せ。
\((2)\) 行列\(\displaystyle A = \begin{pmatrix}a & b\\ c & d\end{pmatrix}\)とその逆行列\(A^{-1}\)がともに\(M\)の要素であるとき、\(ad-bc = 1\)が成立することを示せ。
\((3)\) 行列\(A\)とその逆行列\(A^{-1}\)がともに\(M\)の要素であるような\(A\)をすべて求めよ。
\((4)\) 自然数\(n\)について、\(M\)の要素であって\(A^{n} = E\)を満たすような行列\(A\)の全体の集合を\(S_n\)とする。\(S_n\)の要素の個数がちょうど\(3\)となる\(n\)をすべて求めよ。
方針
\((1)\) 定義に従い計算する。
\((2)\) 計算すると\(ad-bc = a^2-ab+b^2\)となる。これからどのような議論ができるか考える。
\((3)\) \((2)\)の条件を用いて、\(a, b\)の値を計算する。
\((4)\) 少し考えると\((3)\)が使える。\(a^2-ab+b^2 = 0\)のときは別に考える必要がある。
解答
\((1)\) 条件\((i), (ii)\)から\(c = -b, d = a-b\)であるから、\(M\)に属する集合は\(\displaystyle \begin{pmatrix}a & b\\ -b & a-b\end{pmatrix}\)と表される。これから、\(M\)に属する集合\(A, B\)に対して、$$\begin{eqnarray}AB & = & \begin{pmatrix}a & b \\ -b &a-b\end{pmatrix}\begin{pmatrix}p & q \\ -q & p-q\end{pmatrix}\\ & = & \begin{pmatrix}ap-bp & aq-b(p-q)\\ -(aq-b(p-q)) & ap-bp-(aq-b(p-q))\end{pmatrix}\end{eqnarray}$$となり、確かにこれは\(M\)に属する。
\((2)\) \((1)\)から\(M\)に属する集合\(A\)の逆行列は\(\displaystyle A^{-1} = \frac{1}{a^2-ab+b^2}\begin{pmatrix}a-b & -b\\ b & a\end{pmatrix}\)となる。ただし、\(a^2-ab+b^2\ne 0\)である。\(A^{-1}\)が\(M\)に属するとき、定義から\(\displaystyle \frac{a}{a^2-ab+b^2}, \frac{b}{a^2-ab+b^2}\)は整数になる。\(\displaystyle a^2-ab+b^2 = \left(a-\frac{b}{2}\right)^2+\frac{3}{4}b^2 \geq 0\)であり、等号は成立しないから、\(a^2-ab+b^2\)は正である。\(\displaystyle x = \frac{a}{a^2-ab+b^2}, y = \frac{b}{a^2-ab+b^2}\)と置くと、\(x, y\)は整数で、$$\begin{eqnarray}x^2-xy+y^2 & = & \frac{a^2-ab+b^2}{(a^2-ab+b^2)^2}\\ & = & \frac{1}{a^2-ab+b^2}\end{eqnarray}$$とある。\(x^2-xy+y^2\)は整数であり、\(a^2-ab+b^2 > 0\)だから、\(a^2-ab+b^2= 1\)となるしかない。
\((3)\) \((2)\) から\(a^2-ab+b^2 = 1\)となる。これを\(a\)についての二次方程式とみると、$$a^2-ba + b^2-1 = 0 \tag{b}\label{b}$$である。\eqref{b}が実数解をもつには、\(D = b^2-4(b^2-1) > 0\)が必要で、これから\(3b^2 < 4\)である。これを満たすのは\(b = 0, \pm1\)である。
\((i)\) \(b = 0\)のとき、\(a^2-ab+b^2 = a^2 = 1\)だから\(a = \pm 1\)となる。このとき\(\displaystyle A = \pm\begin{pmatrix}1 & 0\\ 0 & 1\end{pmatrix}\)となる。これは両方とも\(M\)に含まれる。
\((ii)\) \(b = -1\)のとき、\(a^2-ab+b^2 = a^2+a+1 = 1\)だから、\(a = 0, -1\)である。このとき\(\displaystyle A = \begin{pmatrix}0 & -1\\ 1 & 1\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}-1 & -1 \\ 1 & 0\end{pmatrix}\)となる。これは両方とも\(M\)に含まれる。
\((iii)\) \(b = 1\)のとき、\(a^2-ab+b^2 = a^2-a+1 = 1\)だから、\(a = 0, 1\)である。このとき\(\displaystyle A = \begin{pmatrix}0 & 1\\ -1 & -1\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}1 & 1 \\ -1 & 0\end{pmatrix}\)となる。これは両方とも\(M\)に含まれる。
以上から、\(\displaystyle \underline{A = \begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & 1\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}-1 & 0 \\ 0 & -1\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}0 & -1 \\ 1 & 1\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}-1 & -1 \\ 1 & 0\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}0 & 1 \\ -1 & -1\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}1 & 1 \\ -1 & 0\end{pmatrix}}\)である。
\((4)\) \(a^2-ab+b^2 = 0\)を変形すると、\((2a-b)^2+3b^2 = 0\)となる。このとき、\(a = b = 0\)である。\(A = O\)のとき、\(A^n = E\)とはならない。したがって以後は\(a^2-ab+b^2 \ne 0\)とする。このとき、\((2), (3)\)の議論から\(A\)は\((3)\)の解答の\(6\)つに決定される。
\((i)\) \(\displaystyle A = \begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & 1\end{pmatrix}\)のとき、\(A^n = E\)となるのは\(n = 1, 2, 3, \cdots \)である。
\((ii)\) \(\displaystyle A = \begin{pmatrix}-1 & 0 \\ 0 & -1\end{pmatrix}\)のとき、\(A^n = E\)となるのは\(n = 2, 4, 6, \cdots\)である。
\((iii)\) \(\displaystyle A = \begin{pmatrix}0 & -1 \\ 1 & 1\end{pmatrix}\)のとき、\(\displaystyle A^2 = \begin{pmatrix}-1 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}, A^3 = -E\)であるから\(A^n = E\)となるのは\(n = 6, 12, 18, \cdots\)である。
\((iv)\) \(\displaystyle A = \begin{pmatrix}-1 & -1 \\ 1 & 0\end{pmatrix}\)のとき、\(\displaystyle A^2 = \begin{pmatrix}0 & 1 \\ -1 & -1 \end{pmatrix}, A^3 = E\)であるから\(A^n = E\)となるのは\(n = 3, 6, 9, \cdots\)である。
\((v)\) \(\displaystyle A = \begin{pmatrix}0 & 1 \\ -1 & -1\end{pmatrix}\)のとき、\(\displaystyle A^2 = \begin{pmatrix}-1 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}, A^3 = E\)であるから\(A^n = E\)となるのは\(n = 3, 6, 9, \cdots\)である。
\((vi)\) \(\displaystyle A = \begin{pmatrix}1 & 1 \\ -1 & 0\end{pmatrix}\)のとき、\(\displaystyle A^2 = \begin{pmatrix}0 & 1 \\ -1 & -1 \end{pmatrix}, A^3 = -E\)であるから\(A^n = E\)となるのは\(n = 6, 12, 18, \cdots\)である。
以上から、\(S_n\)の要素の個数が\(3\)となるのは、\(n = 3, 9, 15, \cdots = \underline{3+6k\ \ (k=0, 1, \cdots)}\)である。
解説
\((2)\) がこの問題の山場であるが、いろいろな方法があるだろう。\(a, b\)が大きいとき\(|a| < a^2-ab+b^2\)または\(|b| < a^2-ab+b^2\)となるので\(a, b\)はそれほど大きい値にはならないので、個別に\(a, b\)の値を考えても良い。
\((3)\) \(a^2-ab+b^2 = 1\)であるならば、\(a, b\)の取り得る値は制限があるはずで、それを二次方程式の判別式から求める。
\((4)\) \((3)\)を用いて個別に計算する。なお、\(a^2-ab+b^2=0\)のとき\(a =b = 0\)になるが、このとき\(A\)は逆行列を持たないが、\(M\)には含まれるので言及しておく。
関連問題
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