問題
\(0\)以上の整数\(x, y\)に対して、\(R(x, y)\)を次のように定義する。$$\begin{cases}xy = 0のとき、R(x, y) = 0\\ xy\ne 0のとき、xをyで割った余りをR(x, y)とする。\end{cases}$$正の整数\(a, b\)に対して、数列\(\{r_n\}\)を次のように定義する。$$r_1 = R(a, b), \ \ r_2 = R(b, r_1), \ \ r_{n+1} = R(r_{n-1}, r_n)\ \ (n = 2, 3, 4, \cdots)$$また、\(r_n = 0\)となる最小の\(n\)を\(N\)で表す。たとえば、\(a = 7, b = 5\)のとき\(N = 3\)である。次に、数列\(\{f_n\}\)を次のように定義する。$$f_1 = f_2 = 1, \ \ f_{n+1} = f_n + f_{n-1}\ \ (n = 2, 3, 4, \cdots)$$このとき以下の各問いに答えよ。
\((1)\) \(a = f_{102}, b = f_{100}\)のとき、\(N\)を求めよ。
\((2)\) 正の整数\(a, b\)について、\(a\)が\(b\)で割り切れないとき、\(n\geq f_{N}\)が成立することを示せ。
\((3)\) \(2\)以上の整数\(n\)について、\(10f_n < f_{n+5}\)が成立することを示せ。
\((4)\) 正の整数\(a, b\)について、\(a\)が\(b\)で割り切れないとき、\(\displaystyle \sum_{k=1}^{N-1}{\frac{1}{r_k}} < \frac{259}{108}\)が成立することを示せ。
方針
Euclidの互除法とフィボナッチ数列を題材にした比較的高級な問題である。
\((1)\) フィボナッチ数列の定義から\(f_{n+1} = f_n + f_{n-1}\)であるので、\(f_{n+1}\)を\(f_n\)で割った余りは\(f_{n-1}\)となる。丁寧に始めの数項を書き出してみると良い。
\((2)\) であるが、作り方から$$r_1 > r_2 > \cdots > r_n > \cdots$$であることは分かる。\(N\)が大きくなるときはどういうときかを考えると、\(r_{n-1} = r_{n}\cdot q + r_{n-1}\)なので、\(q = 1\)のときであると分かる。ここからフィボナッチ数列との関係を考察してみる。
\((3)\) シンプルに帰納法でよいだろう。
\((4)\) 素直に誘導に身を任せると良い。
解答
\((1)\) \(f_{n+1} = f_{n}+f_{n-1}\)であるから、\(f_{n+1} = f_{n-1}+f_{n-2} + f_{n-1} = 2f_{n-1} + f_{n-2}\)となる。Euclidの互除法から、$$\begin{eqnarray}r_1 & = & R(f_{102}, f_{100})\\ & = & f_{99}\\ r_2 & = & R(f_{100}, f_{99}) \\ & = & f_{98}\\ r_3 & = & R(f_{99}, f_{98})\\ & = & f_{97}\\ \cdots & = & \cdots \\ r_{97} & = & R(f_5, f_4)\\ & = & f_3 \\ r_{98} & = & R(f_4, f_3)\\ & = & f_2\\ r_{99} & = & R(f_3, f_2) \\ & = & 0\end{eqnarray}$$である。よって、\(\underline{N = 99}\)となる。
\((2)\) $$r_{i-1} = qr_{i} + r_{i+1}$$となる正の整数\(q\)が存在するので、\(r_{i-1} \geq r_{i} + r_{i+1}\ \ (i = 2, 3, \cdots, N-1)\)である。これから、$$r_{N-n+1} \geq f_{n}\ \ (n=2, 3, \cdots, N) \tag{b}\label{b}$$であることを数学的帰納法によって示す。\(n = 2\)のとき、示すべきは\(r_{N-1}\geq f_2 = 1\)であるが、\(r_{N-1} > r_N = 0\)よりこれは成立する。\(n \leq k\)のとき\(r_{N-k+1}\geq f_k\)の成立を仮定すると、$$\begin{eqnarray}r_{N-(k+1)+1} & = & r_{N-k}\\ & \geq & r_{N-k+1} + r_{N-K+2} \\ & \geq & f_k + f_{k-1} \\ & = & f_{k+1} \end{eqnarray}$$となり、\eqref{b}が成立する。\eqref{b}で特に\(n = N\)として、\(r_1\geq f_N\)である。
\((3)\) 数学的帰納法で示す。\(n = 2\)のとき、\(f_1 = 1, f_2 = 1, f_3 = 2, f_4 = 3, f_5 =5,f_6 = 8, f_7 = 13\)であるから、\(10f_2 = 10 < f_7 = 13\)で題意は成り立つ。\(n \leq k\)のとき\(10f_k < f_{k+5}\)が成立することを仮定すると、$$\begin{eqnarray}f_{k+6} & = & f_{k+5} + f_{k+4} \\ & > & 10(f_k + f_{k-1}) \\ & = & 10f_{k+1}\end{eqnarray}$$であり、\(n = k+1\)のときも題意が成り立つ。よって数学的帰納法により題意の成立が証明される。
\((4)\) \eqref{b}から\(\displaystyle \frac{1}{r_{N-n+1}} \leq \frac{1}{f_n}\ \ (n = 2, 3, \cdots, N)\)である。したがって、$$\sum_{k=1}^{N-1}{\frac{1}{r_k}} = \frac{1}{f_2} + \frac{1}{f_3} + \cdots + \frac{1}{f_N} \tag{c}\label{c}$$である。\((3)\)から\(n\geq 2\)のとき\(\displaystyle \frac{1}{f_{n+5}} < \frac{1}{10f_{n}}\)であり、\(n = 2, 3, \cdots, N\)として足すと、$$\begin{eqnarray}\frac{1}{f_7} + \frac{1}{f_8} + \cdots + \frac{1}{f_{N+5}} & < & \frac{1}{10}\left(\frac{1}{f_2} + \frac{1}{f_3} + \cdots + \frac{1}{f_N}\right)\\ \iff \frac{1}{f_2} + \frac{1}{f_3} + \cdots + \frac{1}{f_N} + \frac{1}{f_{N+1}} + \cdots + \frac{1}{f_{N+5}}\\ -\left(\frac{1}{f_2} + \frac{1}{f_3} + \frac{1}{f_4} + \frac{1}{f_5} + \frac{1}{f_6}\right) & < & \frac{1}{10}\left(\frac{1}{f_2} + \frac{1}{f_3} + \cdots + \frac{1}{f_N}\right)\\ \iff \frac{9}{10}\left(\frac{1}{f_2} + \frac{1}{f_3} + \cdots + \frac{1}{f_N}\right) & < & \frac{1}{f_2} + \frac{1}{f_3} + \frac{1}{f_4} + \frac{1}{f_5} + \frac{1}{f_6}\\ & &- \left(\frac{1}{f_{N+1}} + \cdots + \frac{1}{f_{N+5}}\right) \\ & < & \left(\frac{1}{f_2} + \frac{1}{f_3} + \frac{1}{f_4} + \frac{1}{f_5} + \frac{1}{f_6} \right)\\ & = & 1+\frac{1}{2} + \frac{1}{3} + \frac{1}{5} + \frac{1}{8} \\ & = & \frac{120+60+40+24+15}{120}\\ & = & \frac{259}{120}\end{eqnarray}$$である。これを整理すると、$$\frac{1}{f_2} + \frac{1}{f_3} + \cdots + \frac{1}{f_N} < \frac{10}{9}\cdot \frac{259}{120} = \frac{259}{108}$$となり、\eqref{c}と合わせて題意の不等式が成立する。
解説
Euclidの互除法そのものは入試問題でよく題材とされるが、互除法のステップ数がどのくらいになるのかを正面から扱った問題である。解答中の\eqref{b}がその一つの答になっている。実は、次の定理がよく知られている。
Rameの定理
\(a, b\)を\(a > b\)を満たす正整数として、\(b\)の桁数を\(M\)とするとき、Euclidの互除法により最大公約数を求める割り算の回数\(N\)について、$$ N \leq 5M$$が成り立つ。
例えば\(b\)が\(100\)桁の整数であったとしても、互除法を\(500\)回行えば最大公約数を求めることが可能ということで、なかなか強力な定理である。
また、フィボナッチ数列の逆数和については以下のwikipediaの記事も参考にすると良い。
総じて高級な題材を扱った高級な入試問題である。家でじっくり解く分には楽しめる問題だが、試験場ではどのくらいの受験生が完答できたのだろう。特に\((2)\)が難しく、時間内に正答できた受験生は相当の実力があると自信を持って良いだろう。
関連問題
フィボナッチ数列については以下も参照されたい。
1992年東京大学前期文系数学問題3 場合の数とフィボナッチ数列
2005年前期東京医科歯科大学数学問題1 数列、特性方程式
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